※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
《世界選手権へかけるシリーズ》
男子フリースタイル | 55kg級 | 60kg級 | 66kg級 | 74kg級 | 84kg級 | 96kg級 | 120kg級 |
男子グレコローマン | 55kg級 | 60kg級 | 66kg級 | 74kg級 | 84kg級 | 96kg級 | 120kg級 |
女 子 | 48kg級 | 51kg級 | 55kg級 | 59kg級 | 63kg級 | 67kg級 | 72kg級 |
(文=樋口郁夫)
ロンドン・オリンピックで金メダルを獲得し、いやがおうでも注目されることになる日本の男子フリースタイル66kg級。米満達弘(自衛隊)以前にも、池松和彦が2003年世界選手権で銅メダルを取るなど好成績を残してきた階級だ。今年の世界選手権は、高校教師1年目の井上貴尋(東京・自由ヶ丘学園高教)が初出場する。
教師という仕事の関係で、世界選手権代表が決まってから夏休みに入るまでは思うように練習時間がとれなかった。しかし、7月下旬から韓国遠征に参加し、8月中旬は昨年まで恒例だった日体大の草津合宿で練習。
8月の最後は長野・菅平での高地合宿で鍛え、「自分なりに追い込めた。学生時代よりパワーアップできていると思う。いいコンディションで世界選手権へ臨める」と気合を入れる。
■全日本選抜選手権は無欲の勝利
世界選手権代表獲得は無欲の結果だった。卒業して高校の教員となり、選手活動優先の生活は終えていた。しかし、6月全日本選抜選手権では3試合に勝って優勝。石田智嗣(警視庁)とのプレーオフも4-1で勝ち、「まさか」(本人談)の世界選手権行きのキップが転がり込んできた。 菅平合宿で練習する井上
どんな形であれ、世界選手権代表になった以上、今度は日本レスリング界の期待を背負って闘わねばならない。「期待されたので実力を出せませんでした」では困る。
期待が気負いやプレッシャーにならないことが必要だが、井上は「実はフリースタイルの国際大会は初めてなんです。その意味で、気持ち的には楽な部分があります」と話す。初出場なればこそ、必要以上に考えることが少ないわけで、今度も無欲の勝利の再現が期待されるところだ。
■大学進学後も両スタイルで成績を残す
兵庫・育英高時代の2008年に全国高校選抜大会とインターハイ(ともにフリースタイル)、全国高校グレコローマン選手権と国体グレコローマンで優勝。大学では2011年に全日本学生選手権グレコローマンと全日本大学選手権(フリースタイル)で優勝。2012年の世界学生選手権はグレコローマンでの出場だった。 6月の全日本選抜選手権。差しを中心に攻め、世界選手権代表を勝ち取った
首のヘルニアを患ったあと、闘いのスタイルがタックルではなく差し中心となり、それがグレコローマンでも通じて成績を残せたのだという。今でもタックルには怖さがあり、差して攻めるのが攻撃のスタイル。日本選手に多い低く構えてタックルで攻めるレスリングではなく、欧米選手に多いグレコローマン的なレスリングだ。
韓国遠征では、「返されることもありましたが、想定内のことで修正できました」と、通用したという感触があった。上半身の強い欧米選手に通用するかどうかは未知数だが、日本的でないレスリングをしてくることに、戸惑う選手が出てくるかもしれない。楽しみな初の世界選手権出場だ。
■初の世界選手権出場を支える材料は多い
世界での実績のない井上だが、全日本選抜選手権で2011年プレ・オリンピック2位の田中幸太郎(阪神酒販)と、2010年世界学生選手権優勝&今年のアジア選手権3位の石田智嗣(警視庁)を破ったという事実は、「自分にもそのくらいの実力がある。世界のトップを狙える」と言い聞かせられる材料。
兄・智裕(現三恵海運=グレコローマン74kg級)は、井上と同じく高校教師として第一線での活動にピリオドを打つつもりが、無欲の勝利で日本一へ。その勢いで今年のアジア選手権(インド)では3位を勝ち取っており、「高校教師ででも、できる」と刺激されている。
「高校の教え子への見本にならねばならない」との気持ちもあり、精神的に初の世界選手権を支える材料は多い。初出場らしいフレッシュな闘いが期待される。
井上貴尋(いのうえ・たかひろ=東京・自由ヶ丘学園高教) 初出場 1990年8月29日、兵庫県生まれ、22歳(大会時23歳)。兵庫・育英高~日体大卒。高校時代の2008年に両スタイルにまたがっての高校四冠王を獲得。2011年にグレコローマンで全日本学生選手権優勝、フリースタイルの全日本大学選手権優勝など、両スタイルで活躍。2012年はグレコローマンで世界学生選手権に出場する一方(8位)、全日本選手権はフリースタイルで2位。171cm。 |
◎井上貴尋の最近の国際大会成績
《2012年》
【世界学生選手権グレコローマン66kg級(フィンランド)】=8位(16選手出場)
敗復戦 ●[0-2(0-2.TF0-6)]Marat Shokarov(ロシア)
2回戦 ●[0-2(1-1,0-2)]Mevlut Arik(トルコ)
1回戦 ○[2-0(1-0,2-0)]Milen Dimitrov(ブルガリア)