※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫) 高校生最後の夏に優勝した澤田(左)と室伏
ともに保育園・幼稚園の時から、クラブは違ったがレスリングをやってきた顔なじみの選手(室伏は沼津クラブ、澤田は三島南クラブ)。両者とも小中学生を通じて全国一はなく、高校に入学してからも、3位はあっても表彰台の一番高いところには縁がなかった。同校の井村陽三監督は初の全国一を「まじめにやってきたことに対する、(神様の)ご褒美でしょう。2人とも持ち味をしっかり発揮してくれました」とねぎらった。
■ともにキャリア10年以上で初の全国一
50kg級の室伏は1-3とリードされながら、テークダウンで追いつき、横崩しで突き放して7-4での勝利。「すごくうれしい。リードされて焦りましたが、井村先生(監督)が『落ち着いてやれ』と自信をもった表情でアドバイスしてくれ、安心できました」と言う。
インターハイは準々決勝で敗れ、「ふがいない試合で悔いが残った。この大会にかけた」と、リベンジに燃えた大会でもあった。グラウンド技は決して得意ではないが、決勝のあの場面ではそれにかけるしかないと思い、力の限りを尽くしたという。 優勝を決め、応援席に手を振る室伏
66kg級の澤田は、全国高校選抜&インターハイ王者の木下貴輪(鹿児島・鹿屋中央)相手に、コーションで得たパーテールポジションの攻撃から一気にローリング3回転を決めて勝った。「うれしいです。うれしいの一言しかありません」と、言葉がなかなか出てこない。
勝負を決めたローリング3回転は、「あの技しか攻撃のパターンがないんです」とのこと。これは井村監督も認めていることで、「以前のルールの方がよかった選手です。スタンド戦を流せば、必ずパーテールポジションがあるわけですから」と苦笑いする。だが、ルール変更によってスタンド戦に磨きをかけたからこその優勝なわけで、ルールが変わってから約3ヶ月間の努力の賜物だろう。
インターハイは初戦で大越幸之介(神奈川・荏田)に敗れ、室伏以上にこの大会をリベンジ戦と位置付けたていた。わずかな期間で気持ちを切り替えるのは難しかったというが、「絶対に優勝する」と言い聞かせて大会を迎えたという。
大越には準決勝でリベンジに成功。決勝はインターハイ王者が相手で、昨年のインターハイでは完敗した相手。「チャンピオンという名前に負けそうになった」と言うが、心を奮い立たせてマットに向かったという。
昨年のこの大会、国体、今年3月の全国高校選抜大会と3位が続いた。「銅メダル・コレクター返上だね」との声に、にっこり微笑み、「先生やチームメートと反復練習を中心としっかり練習してきた成果だと思います」と振り返った。
■インターハイ学校対抗戦の敗北が発奮材料か? 優勝を決め、ガッツポーズの澤田
精神面では、インターハイの個人戦のV逸以上に学校対抗戦での敗北の方が発奮材料だったのでは、と分析する。準決勝の霞ヶ浦(茨城)戦で3-4と敗れたが、室伏、澤田とも敗れており、この2人のうちのどちらかが勝っていれば決勝進出だった。「悔しかったし、責任も感じていたはず」。その思いを払しょくしたいという気持ちが、優勝の原動力だったのだろう
今年の3年生は3人。ずば抜けていたわけではない選手を育て、2人が優勝してくれたのだから指導者冥利に尽きるところだが、「国体では(今回は8位に終わった)もう一人も優勝させたい。熱心にやってくれたいいチームですから、全員にタイトルを取らせて大学を送りたい」と、教え子への愛情を口にした。