※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 山梨県初のインターハイ王者に輝いた文田
文田は2012年3月に全国高校選抜選手権55kg級を制したあと、JOC杯、全国高校グレコローマン選手権、岐阜国体と、2年生ながら高校4冠王者に輝いた。唯一落としたのが新潟で行われたインターハイ。決勝で、今大会55kg級を制した樋口黎(茨城・霞ヶ浦)に惜敗してしまい、唯一の取りこぼしとなってしまった。その“忘れ物”を1年がかりで取り返した。
■昨年の4冠王者、今年はインターハイが初タイトル
文田は、高校生ながらグレコローマンを専門にしている選手。「グレコローマンのスタイルなので、足を取られるのが課題でした。コーチやチームメートにタックルを何度も入ってもらって対策を練り、克服してきました。インターハイは一番大きな大会なので、どうしても優勝したかったです」と、1年前の苦い経験を糧に、自分のスタイルを作り上げてきた。
今シーズンは文田にとって思い通りにいかないことばかりだった。高校最後のシーズンは5冠王を狙いたかったが、意外にも今回の優勝が今シーズン初の全国タイトル。3月の全国高校選抜大会は、予選となる2月の関東高校選抜大会を体調不良で計量失格。本大会に出場できなかった。復帰戦となった4月のJOC杯は、大学生が主戦場のジュニアの部に出場し3位だった。 グレコローマンにはない脚へのタックルに苦しめられながらも、勝ち上がる(写真は藤波戦)
それだけに、インターハイにかける気持ちは強かったが、父でもある文田敏郎監督は「階級を55kg級から60kg級に上げても体重が増えず、調子も上がらず、負ける要素の方が大きかった」と振り返る。組み合わせは、全国高校選抜大会60kg級優勝の藤波雄飛(三重・いなべ総合)と準々決勝で対戦することが予想された。「藤波選手のほうが体も一回り大きいし、高速タックルにうまさがある。こっちはタックルがありませんから」(文田監督)。優勝の二文字は遠い夢のように見えた。
■米満達弘からもらったシューズをはいて優勝
藤波との試合は、案の定、開始早々に3点タックルを奪われて1-4とリードされてしまった。この窮地を、文田はグレコローマンの選手でもあった文田監督から初めて教わった技、がぶり返しで打破した。「中学の時は得意だったけど、練習しなくなっておろそかになっていた技。今回、また練習をして仕上げてきたんです」と満を持して繰り出した。そこから徐々に追いつき逆転。“パワーVSタックル対決”は、パワーレスリングを展開した文田が13-9で制した。
全体的に失点もあった大会だが、最後のインターハイで見事に表彰台の真ん中に立った文田。「オリンピック効果もありました。今回のレスリングシューズは米満先輩からいただいたものなのです。インターハイで使おうと、これまで大事にとっておいたんです」とゲンかつぎも入念だった。
現時点では、大学進学後はグレコローマンに絞ることも考えている。「国体はグレコローマンに出場するので、もしかしたら最後のフリースタイルの大舞台になるかもしれなかった。優勝したかった」とも振り返った。
全国優勝がゼロだった山梨県から、グレコローマン風のスタイルで全国高校選抜大会、そしてインターハイと、2つの初優勝を勝ち取った文田が(注=選抜は小柳和也との同時初優勝)、最高の形でフリースタイルから卒業した。
決勝でも、がぶり返しが爆発 | 文田敏朗監督(左端)と山梨県の入賞選手 |
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