※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 優勝後、マットサイドで全員そろってナンバーワン!
大澤友博監督は「個人の力はいなべ総合のほうがありました。勝利計算は50、55、60kg級で3連勝し、120kgで4勝目と思っていたので、50kg級が負けた時点で、9割、夏が終わったと思いました。優勝したことが信じられない」と振り返った。
団体戦MVPには、個人MVPにも輝いた樋口黎主将が受賞。MVPのダブル受賞は10年ぶりの快挙。3年間を振り返って「入学時に、同期全員の前で大澤先生に『お前たちは金の卵だ。先生には3年の時にインターハイで優勝する姿が見える』と言われました。それが本当になってよかった」とホッとした様子だった。
階級 | 霞ヶ浦 | 内容 | いなべ総合 | ||
50kg級 | 高橋拓也 | ● | TF4:18(0-7) | ○ | 成國大志 |
55kg級 | 樋口 黎 | ○ | TF3:47(11-4) | ● | 藤田雄大 |
60kg級 | 松宮大樹 | ○ | 3-3 | ● | 川瀬祥史 |
66kg級 | 奥田海人 | ● | TF0:55(0-7) | ○ | 藤波勇飛 |
74kg級 | 牧瀬拳人 | ● | TF3:18(0-8) | ○ | 松尾侑亮 |
84kg級 | 蛭田瞭平 | ○ | 2-2 | ● | 日紫喜豪貴 |
120kg級 | 貝塚賢史 | ○ | 1-0 | ● | 山口太希 |
■ポイントゲッターのはずが…蛭田の不調が誤算だった団体戦
決勝は厳しい状況からの逆転勝利だった。50kg級敗北の埋め合わせをする駒が霞ヶ浦にはいない。66kg級の奥田海人は積極的なレスリングを展開する選手だったが、対戦相手の藤波勇飛は全国高校選抜大会60kg級王者でチームのエース。分が悪い。74kg級の牧瀬拳人はひざの大けがから回復したばかり。84kg級の蛭田に期待をかけたいところだが、大澤監督が「ひとつも足が動いていなかった」という最悪の状態だった。 大澤監督にとって今大会は、蛭田に悩み、蛭田に救われた大会となった
1-8とテクニカルフォール負け。「あれだけ練習して、何のためにやってきたと思ってるんだ? オレたちの練習はなんだったんだ? もう、次(決勝)は使わない」とメンバー落ちを宣告した。
蛭田は決して霞ヶ浦の“お荷物選手”ではない。大澤監督は「もともと、そういう選手だったら、ここまで言いません。タックルにどんどん入るすごい選手なんです」と話し、勝利を計算できる選手の一人だった。長崎に来てから絶不調。本来の力を本番で引き出すためにゲキを飛ばし続けたが、蛭田の調子は戻らなかった。
決勝では蛭田をあきらめ、中量級の選手の起用を考えたが、規定では計量した階級の1階級上までしか出場できない。結局、蛭田を使うしかなかった。大澤監督は「お前がやるしかないんだ」と蛭田に告げた。
■王手かけられ、土壇場で蛭田のタックルが決まった 値千金となった蛭田の大会唯一のタックル
プレッシャーのかかる状況下で、絶不調の蛭田がマットへ。ムードからすべてがいなべ総合に分があるような雰囲気だった。案の定、第1ピリオドは、いなべ総合の日紫喜豪貴がタックルで攻め、蛭田は、防戦一方。第1ピリオド、2点を取られて0-2で折り返した。後半になり、蛭田もタックルを出し始めるが、流れは変わらず終盤へ。いなべ総合のベンチは勝ちを確信する選手も出始めた。
ラスト30秒だった。蛭田が日紫喜にアタックし、場外ポイントをゲット。2-1と反撃を開始。蛭田は「貝塚につなげるため、タックルで決めたかった。タックルでポイントを取った方が、精神的に相手に(ダメージが)来るので」と、勝ったかのようなしぐさを繰り返した日紫喜にラストアタック。日紫喜の片足を取って、そのままプレッシャーをかけて前に出ると、日紫喜はこらえることもできず、いとも簡単に場外へ出てしまった。 MVPをダブル受賞した樋口黎主将
蛭田が「夢中でした。最後の最後まであきらめないという気持ちで取れました」と振り返れば、大澤監督は「あれだけタックルができる蛭田が、この大会で(きれいに)決めたのは、あの1本だけでした」と、最後に決まったタックルが霞ヶ浦の起死回生となる1勝となった。
■勝因は「霞ヶ浦の伝統」勝負を捨てない粘り強さ
チームスコア3-3となれば形勢逆転。個人戦120kg級優勝の貝塚が横綱相撲で勝利をおさめて4勝目。霞ヶ浦が2年ぶりに王座を奪回した。大澤監督は「(ウチの選手は)追い込まれても勝負を捨てないんですよね。今大会は蛭田にすべて流れを壊されてきたけど、その蛭田で優勝できた。名誉挽回してくれました」と、蛭田を称えた。
2年ぶりに王座を奪回した霞ヶ浦。王者返り咲きは2008年にも実現しているが、同年から今年まで、2009年を除いて決勝のスコアは4-3。いずれも一度は追い込まれているところから逆転しての優勝だ。記者からの「窮地に追い込まれてからの状況の勝因は?」と尋ねられた大澤監督は、「伝統を持っているから」ときっぱり言い切った。
■最近6年間の決勝成績
年 | 決 勝 記 録 | 内 容 |
2008年 | 霞ヶ浦○[4-3]●花咲徳栄 | 2-2から2連勝し、84kg級で決まる |
2009年 | 霞ヶ浦○[5-2]●花咲徳栄 | 50kg級から5連勝、66kg級で決まる |
2010年 | 霞ヶ浦○[4-3]●秋田商 | 0-2、1-3から3連勝(120kg級は相手なし) |
2011年 | 霞ヶ浦○[4-3]●花咲徳栄 | 2-2から2連勝し、84kg級で決まる |
2012年 | 花咲徳栄○[5-2]●霞ヶ浦 | 50kg級から4連勝、66kg級で決まる |
2013年 | 霞ヶ浦○[4-3]●いなべ総合 | 2-3から2連勝、120kg級で決まる |