2013.08.10

【インターハイ・特集】不調だった84kg級の蛭田が決勝で名誉挽回の白星…V23の霞ヶ浦

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 名誉挽回の白星! 長崎インターハイ学校対抗戦は、昨年2位で今年3月の全国高校選抜大会優勝の霞ヶ浦(茨城)が、決勝でいなべ総合(三重)を4-3で振り切って優勝。2年ぶり23度目の優勝を決めた。決勝は、大会を通して絶不調だった84kg級の蛭田瞭平が名誉挽回の白星。個人戦120kg級で優勝した貝塚にチームスコア3-3でつないだことが、勝利を引き寄せた。

 大澤友博監督は「個人の力はいなべ総合のほうがありました。勝利計算は50、55、60kg級で3連勝し、120kgで4勝目と思っていたので、50kg級が負けた時点で、9割、夏が終わったと思いました。優勝したことが信じられない」と振り返った。

 団体戦MVPには、個人MVPにも輝いた樋口黎主将が受賞。MVPのダブル受賞は10年ぶりの快挙。3年間を振り返って「入学時に、同期全員の前で大澤先生に『お前たちは金の卵だ。先生には3年の時にインターハイで優勝する姿が見える』と言われました。それが本当になってよかった」とホッとした様子だった。

階級 霞ヶ浦   内容   いなべ総合
50kg級 高橋拓也 TF4:18(0-7) 成國大志
55kg級 樋口 黎 TF3:47(11-4) 藤田雄大
60kg級 松宮大樹 3-3 川瀬祥史
66kg級 奥田海人 TF0:55(0-7) 藤波勇飛
74kg級 牧瀬拳人 TF3:18(0-8) 松尾侑亮
84kg級 蛭田瞭平 2-2 日紫喜豪貴
120kg級 貝塚賢史 1-0 山口太希

■ポイントゲッターのはずが…蛭田の不調が誤算だった団体戦

 決勝は厳しい状況からの逆転勝利だった。50kg級敗北の埋め合わせをする駒が霞ヶ浦にはいない。66kg級の奥田海人は積極的なレスリングを展開する選手だったが、対戦相手の藤波勇飛は全国高校選抜大会60kg級王者でチームのエース。分が悪い。74kg級の牧瀬拳人はひざの大けがから回復したばかり。84kg級の蛭田に期待をかけたいところだが、大澤監督が「ひとつも足が動いていなかった」という最悪の状態だった。

 蛭田は大会前半に行われた個人戦で、まさかの3回戦敗退に終わった。大澤監督の「個人戦のことを忘れろと言ったのですが…」との指導もむなしく、切り替えができずに団体戦でも不調が続いた。堪忍袋の緒が切れたのは準決勝の飛龍戦だった。

 1-8とテクニカルフォール負け。「あれだけ練習して、何のためにやってきたと思ってるんだ? オレたちの練習はなんだったんだ? もう、次(決勝)は使わない」とメンバー落ちを宣告した。

 蛭田は決して霞ヶ浦の“お荷物選手”ではない。大澤監督は「もともと、そういう選手だったら、ここまで言いません。タックルにどんどん入るすごい選手なんです」と話し、勝利を計算できる選手の一人だった。長崎に来てから絶不調。本来の力を本番で引き出すためにゲキを飛ばし続けたが、蛭田の調子は戻らなかった。

 決勝では蛭田をあきらめ、中量級の選手の起用を考えたが、規定では計量した階級の1階級上までしか出場できない。結局、蛭田を使うしかなかった。大澤監督は「お前がやるしかないんだ」と蛭田に告げた。

■王手かけられ、土壇場で蛭田のタックルが決まった

 勝負は予想通り一進一退の攻防となったが、霞ヶ浦は50kg級を落としたことに加えて、55kg級でエースの樋口が今大会初めて失点するなど押され気味。60kg級は松宮大樹が勝ったものの、66kg級の奥田、74kg級の牧瀬と連敗し、先に王手をかけたのは、初優勝を狙う、いなべ総合だった。

 プレッシャーのかかる状況下で、絶不調の蛭田がマットへ。ムードからすべてがいなべ総合に分があるような雰囲気だった。案の定、第1ピリオドは、いなべ総合の日紫喜豪貴がタックルで攻め、蛭田は、防戦一方。第1ピリオド、2点を取られて0-2で折り返した。後半になり、蛭田もタックルを出し始めるが、流れは変わらず終盤へ。いなべ総合のベンチは勝ちを確信する選手も出始めた。

 ラスト30秒だった。蛭田が日紫喜にアタックし、場外ポイントをゲット。2-1と反撃を開始。蛭田は「貝塚につなげるため、タックルで決めたかった。タックルでポイントを取った方が、精神的に相手に(ダメージが)来るので」と、勝ったかのようなしぐさを繰り返した日紫喜にラストアタック。日紫喜の片足を取って、そのままプレッシャーをかけて前に出ると、日紫喜はこらえることもできず、いとも簡単に場外へ出てしまった。

 スコアは2-2。残りは8秒。同点で終わった場合、通常の場外ポイントによる1点ならビッグポイントがある日紫喜の勝ちとなるところだが、審判の判定は場外逃避のコーションがついた。勝敗決定の基準の第一は、ビッグポイントではなくコーションの数。したがって、相手にコーションを与えた蛭田が2-2の同点ながら勝者となった。

 蛭田が「夢中でした。最後の最後まであきらめないという気持ちで取れました」と振り返れば、大澤監督は「あれだけタックルができる蛭田が、この大会で(きれいに)決めたのは、あの1本だけでした」と、最後に決まったタックルが霞ヶ浦の起死回生となる1勝となった。

■勝因は「霞ヶ浦の伝統」勝負を捨てない粘り強さ

 チームスコア3-3となれば形勢逆転。個人戦120kg級優勝の貝塚が横綱相撲で勝利をおさめて4勝目。霞ヶ浦が2年ぶりに王座を奪回した。大澤監督は「(ウチの選手は)追い込まれても勝負を捨てないんですよね。今大会は蛭田にすべて流れを壊されてきたけど、その蛭田で優勝できた。名誉挽回してくれました」と、蛭田を称えた。

 2年ぶりに王座を奪回した霞ヶ浦。王者返り咲きは2008年にも実現しているが、同年から今年まで、2009年を除いて決勝のスコアは4-3。いずれも一度は追い込まれているところから逆転しての優勝だ。記者からの「窮地に追い込まれてからの状況の勝因は?」と尋ねられた大澤監督は、「伝統を持っているから」ときっぱり言い切った。

■最近6年間の決勝成績

決 勝 記 録 内  容
2008年 霞ヶ浦○[4-3]●花咲徳栄  2-2から2連勝し、84kg級で決まる
2009年 霞ヶ浦○[5-2]●花咲徳栄  50kg級から5連勝、66kg級で決まる
2010年 霞ヶ浦○[4-3]●秋田商   0-2、1-3から3連勝(120kg級は相手なし)
2011年 霞ヶ浦○[4-3]●花咲徳栄  2-2から2連勝し、84kg級で決まる
2012年 花咲徳栄○[5-2]●霞ヶ浦  50kg級から4連勝、66kg級で決まる
2013年 霞ヶ浦○[4-3]●いなべ総合  2-3から2連勝、120kg級で決まる