2013.07.10

【特集】全日本チーム支える貴重な人材!…西日本から強化委員会入りの馬渕賢司コーチ(中京学院大監督)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=保高幸子)

 今年4月から発足した日本協会の強化委員会には、岐阜県中津川市にある中京学院大の馬渕賢司監督(右写真)がグレコローマンの委員(コーチ)に選ばれた。西日本の大学の指導者が強化委員会に名を連ねるのは、2001年に福岡大のコーチを務めていた嘉戸洋委員(1996年アトランタ・オリンピック代表=現環太平洋大監督)以来で、2人目になる。

 中京学院大は昨年12月、創立から13年目にして西日本学生リーグ戦で初優勝。今年5月の春季リーグ戦も制し、2季連続で西日本学生界のトップとなった。全日本王者には手が届かなかった馬渕コーチ(以下、「馬渕コーチ」と表記)だが、指導能力では卓越した才能を発揮した。

 馬渕コーチが異色なのは、地方大学の監督と言うことだけではない。本職は幼稚園(学校法人恵峰学園)の教員であり、幼稚園児に体育を教えていること。2003年10月から大学のレスリング部の監督(初期は特別コーチとして就任)を兼任している。

■岐阜県協会の丸山充信会長との出会いで中京学院大へ

 日体大時代の1995年に全日本大学グレコローマン選手権で優勝。翌春に卒業し、故郷の岐阜に帰ってからは、教員を目指しつつ現役を続け、県内の養護学校を転々としていた。1997年には全日本社会人選手権優勝という実績もつくった。その頃、岐阜県レスリング協会の丸山充信・副会長(現会長)との出会いがあった。

 中京学院大のレスリング部は2000年に創部され、当時は丸山副会長も馬渕コーチもかかわっていない。学校法人安達学園(中京学院大の母体)の理事長が部の強化を同市内在住の丸山副会長に相談。丸山副会長は、当時現役だった馬渕コーチに白羽の矢を立てた。

 同じ岐阜県出身の伊藤広道氏(自衛隊・前監督=強化委員会副委員長)の後押しもあり、丸山会長が理事長を務める学校法人恵峰学園に就職。現役を引退して同部にコーチとして派遣され、のちに監督に就いた。それから約9年で中京学院大を優勝に導いた。

 この間、全日本学生連盟の強化委員にもなり、同時期に委員だった西口茂樹・拓大部長(現グレコローマン強化委員長)とともに学生の海外遠征などにも参加した。西口強化委員長は馬渕コーチが学生だった時代に日体大でコーチを務めており、旧知の間柄だった。数年前から指導者同士として話す機会が増え、意見交換する中で信頼を得ることになった。

 西口委員長は「強化コーチは、オリンピックのメダリストであったり、元全日本チャンピオンだったりするのが一般的。彼は異色。レスリングだけではなく、中津川の青年会議所に所属してリーダーとしての資質を磨いてきたし、行政でも経験を積んでいる。中京学院大の西日本での優勝もあるが、彼が運営した去年の岐阜国体は大成功だった。レスリングだけでなく、何足ものわらじをはいてきた彼のバランス力、プロデュース力はいろんなところで評判になっていますよ」と言う。

■地元では青年会議所のメンバー

 青年会議所というのは、「青年の真摯な情熱を結集し社会貢献することを目的に組織された青年のための団体」(日本青年会議所HP)。多くの政治家や経営者が在籍の経験を持ち、リーダーを育成する組織だ。入会したのは自身も会員だったことのある丸山会長の推薦。「ものの考え方、企画立案の仕方、組織のありかたを身につけた方がいい」と言われ、30歳から一般社団法人中津川青年会議所(当時社団法人)に入会し、リーダーシップを学んできた。

 国体に向けては2006年から2012年まで約7年間、中津川市役所に出向し、実行委員会に籍を置いた。ナショナルチームのコーチとしてはかなり異色の経歴である。

 学生選抜チームの遠征「デーブシュルツ国際大会」(米国)にコーチとして参加した時のエピソードは有名だ。普通、チームは開催国がお膳立てしたバスに乗って移動するが、利用できるバスがなく、チームのストレスになっていた。そこで馬渕コーチはレンタカーを手配するという方法にでた。

 やたらと強化費を使うわけにはいかないが、選手達が望むならと選手団に提案し、みんなで費用を出し合ってレンタカーを手配した。西口強化委員長は「とにかく気が利くし、選手も頼りにする」と大きく信頼を置いている。

 馬渕コーチがナショナルチームで目指すのは、コーチ陣と選手のパイプ役。「若手のコーチをまとめ、選手やコーチ双方から相談を受け、マネージメントしていきたいと思う。グレコローマン・チームがうまくいくようにサポートしていくのが私の仕事だと思っています。技術面のコーチは揃っている。西口強化委員長にはそのあたりを認めていただいたと思う」と、自身の役割を心得ている。

■「チームになくてはならない人材」…西口茂樹委員長

 「外部の監督というのは、普通は仕事が終わらないと練習に行けません。私は丸山会長のはからいで、朝練習と午後練習はいかせていただいている。今回はナショナルチームにも参加を認めていただいた。すべて丸山会長のおかげです。感謝しています」。

 馬渕コーチが中京学院大を優勝させるに至ったのも、ナショナルチームのコーチに就任できたのも、丸山会長の寛容な送り出しと期待によるもの。昨秋の中京学院大の初優勝の際には、選手から胴上げをリクエストされたが、「会長が先だ」と、まず丸山会長を呼び寄せたほどで、感謝の気持ちは大きい。

 ナショナルチームで得る経験を持ち帰れば、丸山会長の「岐阜県のレスリングを盛り上げたい」という期待に応えることにもなるだろう。

 西口強化委員長の「チームにいなくてはならない人材」との肝いりで就任した馬渕コーチ。その成果は、表にはっきりと出るものではない。しかし、「縁の下の力持ち」の存在はチームの躍進の一助となることは間違いない。