※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
Bグループ3階級制覇を達成した佐藤勇介
今回の新人選手権では、74kg級で国際武道大の選手同士が争った。勝った佐藤勇介(群馬・高崎経済大付高)は、昨年のこの大会の66kg級で優勝。秋季はチーム事情で84kg級に出て勝ち、今回は74kg級を制したので、変則ながら3階級制覇を達成した。
■目標は4年間のうちに学生3位以内…74kg級優勝の佐藤勇介
しかし、佐藤の顔に喜びの表情は少なかった。「一部リーグ(の選手の間で)勝つことしか考えていませんし、グレコローマンの方が得意です。勝負は(翌日からの)グレコローマンです。(4年間のうちに)学生の3位以内に入ることが目標です」という強い意志のためだ。
小学校1年生から高校までは柔道に打ち込んだ。群馬県で1位になったこともあるが、「やりたい」という強い気持ちだったわけではなかったという。大学進学を機に「もっと違う可能性があるのではないか」と思っていたところ、今回決勝を闘った渡辺優人選手から誘われてレスリングの道に入った。
決勝でr闘う佐藤
Bグループで3階級制覇を達成したことで、秋季はAグループに挑戦する予定。今回、中大選手を破って1回戦を突破したグレコローマン(ABの区別なし)での上位入賞も大きな目標だ。その前には全日本学生選手権(インカレ=8月20~23日、東京)もあり、「体力をしっかりつけるとともに、グラウンドが弱いので、ローリングをしっかり防ぐといった基本をしっかりやりたい」と話した。
■週1度、片道2時間半をかけて指導に通う小林孝至監督
国際武道大は、昨年春季には3階級で優勝選手を輩出。今回は74kg級で国際武道大の選手同士が決勝を争った。これもオリンピック金メダリストの力? 小林監督は「そんなことないです。強くなるヤツは、放っておいても強くなるんです」と謙そんする。確かに、大学の教員や職員ではないので練習に顔を出すのは週に1度。技術を教えて、あとは選手がそれをどう生かすかにかかっている。
国際武道大学レスリング・チーム
週1度とはいえ、埼玉・三郷市の自宅からキャンパスのある千葉・勝浦市まで、片道2時間半をかけて通う生活も6年目。「引き受けた以上、成果を出さないでやめられません」と、一部リーグの選手の間に入っても通じるチームの育成の目標を持ち続けている。
オリンピックを制した人間にとって、二部リーグのチームの指導は物足りなくないのか? 「そんなことはないです。順序だてて指導しています。(年度の)前半は大会が続くので、ところどころ(指導を)抜かしたりしてしまうことがあって、反省することが多いです」と言う。
インカレまでの2ヶ月間は大会がないので、じっくりと技術の指導をしたいというが、「要は本人のやる気です。私が現役時代に何を考えていたか。勝つために何をすればいいかだけを考えていましたよ」と、自己への厳しさを求めた。
国際武道大からは、大学時代は柔道の選手だった木下英規が、自衛隊に進んでからレスリングに取り組み、1994年にグレコローマン90kg級で世界選手権10位の成績を残している。レスリング部から世界へ飛び出す選手の誕生は、いつか?