※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)
山梨学院大優勝の立役者のボルチンと濱本主将
6月13~16日にタイ・プーケットで行われるアジア・ジュニア選手権は、日本から3スタイルに24選手が出場するが、他に日本の大学で汗を流している選手1人が出場する。この4月、山梨学院大に留学してきたオレッグ・ボルチン(カザフスタン=20歳)だ。
昨年の同大会フリースタイル120kg級で3位に入賞。今年3月にラトビアで行われたジュニアの国際大会で2位に入賞するなど、この世代では世界で通じる実力を見せている。今年のアジア・ジュニア選手権で3位に入賞すれば、世界ジュニア選手権(8月、ブルガリア)への派遣が決まる。
高田裕司監督は、肉体の強さを認めながらも「まだタックルくらいしかできない選手」と、発展途上という評価。多くの技をマスターすることで「カザフスタンのオリンピック選手に育ってほしい」と期待する。
5月14~17日の東日本学生リーグ戦(東京・駒沢体育館)では、さっそく値千金の活躍を連発した。日本選手にはないパワーを生かして他大学のレギュラー選手を圧倒。「スタミナに難がある」という声もあっただけに、第3ピリオドにもつれれば日本選手にも勝つチャンスは出てきたかもしれないが、そこにもつれる前に決着をつけ、山梨学院大の5年ぶりの優勝に大きく貢献した。
カザフスタンでは、強豪大学がひとつしかないので、学校対抗のリーグ戦という大会は存在しないという。各大学が切磋琢磨して闘うリーグ戦を「面白かった」と振り返り、「優勝できたのはうれしい」と続けた。
■日本の練習時間は「長い!」
今年1月、山梨学院大のスカウトで日本を訪れ、話を聞いたり練習環境などを確認。留学を決めた。日本のレスリングは「動いて、技を多くかけてくる」という印象。自身はパワーと瞬発力で勝負をかけてきただけに、戸惑うと言うか、学ぶことの多い日本でのレスリング生活。
得意のタックルで日本選手を次々に沈めた
戸惑いと言えば練習時間の長さもそのひとつ。日本の大学は2時間半くらいの練習が普通だが、カザフスタンではどんなに長くても2時間。「長い!」と苦笑い。しかし、「郷に入れば郷に従え」の言葉通り、みんなと同じだけの練習量をこなしており、「この練習をやってみて結果を見たい」と話した。
過去のいろんな大会で示されている日本とカザフスタンの実力は、軽中量級は互角か日本が上の年もあるが、重量級はカザフスタンの方が圧倒的に強い。ボルチンもそれを証明した形となったが、リーグ戦決勝の前川勝利(早大)との一戦は、タックルを再三防がれるなど、研究されている一面も見せた。今回は日本選手が「カザフスタン」という名前に押された面もあるだろう。
研究されれば、この結果がいつまでも続くものではないはず。日本選手の奮起が期待されるとともに、重量級の活性化につながってくれることが望まれる。
山梨学院大の120kg級には2006~09年にロシアのボリス・ムジコフが在籍。2008年には学生四冠(全日本学生選手権両スタイル、全日本大学グレコローマン選手権、全日本大学選手権)を制するなど活躍した。ボルチンもムジコフの話は聞いているそうで、「学生のタイトル総なめは?」との問いに、「そうしたいです」と謙虚に答えた。
リーグ戦で活躍したあとは、アジア・ジュニア選手権。日本仕込みの技を身につけたカザフスタン選手が飛躍するか。