※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
加藤ロビンソンと安達巧監督
ブラジルは、日本では “地球の裏側”と表現されるとおり、日本から一番遠い国だ。加藤は世界ジュニア選手権出場を目指すため、ゴールデンウィークを利用してブラジルに帰国し、予選に出場した。今回の西日本春季学生リーグ戦では控えに回ってレギュラー選手のサポートに徹した加藤だったが、今シーズンは加藤にとってターニングポイントになるシーズンになることは間違いない。
■組めば最強! そり投げで世界ジュニア選手権出場を決める
滋賀県の栗東高出身。高校時代はグレコローマン96kg級で国体5位が最高。滋賀県から日本文理大を選んだのは、進路に迷っていた高校2年の時、西日本学生界の最強を決めるこのリーグ戦で優勝したチームだったからだ。「ここでレスリングをやりたい」。迷わずに大分行きを決めた。
だが、それは最愛の家族と別れを意味する。「お母さん(加藤マリア・ソコホさん)と離れて最初はホームシックになりました。お母さんは最初、大分行きを反対しました」とのことだが、最終的には「応援してくれた」。今は家族の応援を背に受けて大分で練習に明け暮れている。
得意技はそり投げ。高校時代の恩師の田中秀人監督が「組んだら誰よりも強かった」と振り返るように、その強みを生かして世界ジュニア選手権の予選は、ほぼそり投げで勝ち抜いた。
出場が予定される次の大会は、7月のパンアメリカン選手権(チリ)。「そのあとにあるブラジル選手権も予定しています。それが終わってから8月の世界ジュニア選手権です」と、夏まで試合の予定がぎっしり。すべてブラジルで行われるから大変だ。安達巧監督は「学校の単位も取らなくてはいけないし、渡航費は自腹だし、大変だ」と心配そうに話す。この費用は、現在すべて母親が加藤の夢のために支払ってくれているそうだ。
■もう一つの夢はリオデジャネイロ・オリンピックでの通訳
加藤は「1回の渡航費は約18万円です。本当に親に迷惑をかけている」と話し、1日も早くブラジルの正式なナショナルメンバーになって、母親の負担を減らすことを考えいる。
日本人とは日本語で話し、家では当然ポルトガル語で話す。日本語はもちろん、ポルトガル語と類似のスペイン語もペラペラ。それに目をつけたのが指導者たちだ。栗東高の田中監督は「オリンピックも目指してほしいが…(3年後だと、まだ若すぎて間に合わない)。もう一つの目標として、リオ・オリンピックで語学の才能を活かしてほしい。レスリング用語が分かって、日本語とポルトガル語が完ぺきな人ってなかなかいないでしょ」と話す。
加藤も「チャンスがあれば、そちらもぜひやってみたい」と、選手での目標を第一としながら、もう一つの夢にも前向きな姿勢を示してした。