※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)
ジュニアクイーンズカップの59kg級は、増田奈千(環太平洋大=右写真)が決勝でワールドカップ(3月2~3日、モンゴル)代表の栄希和(至学館大)を2-0で破って優勝。階級アップの初戦を飾るとともに、先輩の伊藤友莉香(現自衛隊)が2010・11年とつかんだ同級チャンピオンの座を環太平洋大に取り戻した。
「すごく、うれしいです。栄さん、強いですから緊張していました」と笑顔を見せた増田は、「とにかく勝とうという気持ちでした」と精神力の勝利を強調。栄が昨年12月の全日本選手権で3位に入賞している成長株であることや、ワールドカップという大舞台を経験したことなどは、「あまり気になりませんでした」と話し、自分の力を信じての闘いだった。
■ジュニア世代にもチャンスが大きい59kg級
初戦からの3試合を振り返って勝因を問われると、嘉戸洋監督からの「手堅く、1点ずつでいいから確実に。変なことするな」というアドバイスを忠実に実行できたことを挙げた。失点は自分から攻撃して取られたポイントなので、内容的にも満足のいく優勝だったようだ。
この優勝で、世界ジュニア選手権(8月、ブルガリア)の日本代表をぐっと引き寄せたが、一方で、シニア59kg級の世界選手権出場も見えてきた。この階級は、2011年世界選手権3位の齊藤貴子、昨年の世界選手権代表の島田佳代子(ともに自衛隊)が引退し、若手による争いが展開されようとしている。
昨年12月に全日本チャンピオンに輝いたのは、昨年のこの大会優勝の伊藤彩香(至学館大)。同2位が高校チャンピオンでもある坂野結衣(日大=当時東京・安部学院高)。坂野がけがの治療で半年ほど戦列を離れるので、ジュニア日本一になった実力をもってすれば、世界選手権代表争いに加わる資格を得たと言える。
増田は「いえ、まだまだです。大学の先輩(隈部千尋=全日本選手権3位)を越えなければなりませんし…」と前置きしながら、「(全日本チャンピオンの)伊藤さんとやってみたい。手足が長く、やりずらいタイプだと思います。でも勝ちたいです」ときっぱり。
2人に勝つためには、「練習で甘えないこと、一生懸命に練習すること。技術的には、この日以上に確実にポイントを取っていくレスリングができるようになること」を挙げた。
決勝で闘う増田(青)
嘉戸監督は「安定感が出てきました」と、増田の「確実にポイントを取るレスリングができた」という言葉を裏付ける評価。高校時代の増田はがぶり返しや横捨て身など思い切りのいい技を使う選手だったそうだが、「強い選手が相手になると、そうした技だけでは勝てない。しっかり守り、チャンスを確実にものにするレスリングが必要」との指導を続け、レスリングの質を変えていった。
上2人を倒すために必要なことは、「まず59kg級で闘える体力をつけ、技術の精度を上げること」。さらに「本当の闘いの経験が少ない選手なので、(緊張する状況下での)闘いを数多く経験すること」とを挙げ、国際舞台に飛び立つ今年は飛躍の年と期待する。
2007年4月にスタートした同大学レスリング部も、丸6年が経った。その間、伊藤友莉香(2011年世界ジュニア選手権優勝、2012年世界学生選手権優勝)など国際舞台でいい成績を残せる選手を輩出することができ、チームのムードが「世界を目指す」というふうに変わっているという。
「国際舞台で活躍する選手がいると、選手の意識は上がります。言わなくとも、やるようになるんです」と嘉戸監督。伊藤は卒業で抜けたが、隈部(前述)のほか、63kg級を制した望月芙早乃もいるので、チーム内での闘いは激しさを増しそう。4月からはモンゴル・チャンピオンの留学生が加わる予定で、中量級はさらに厚みを増す。
チーム内の切磋琢磨によって、増田が世界へ飛躍する-。