※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
高田裕司専務理事からクイーンズカップを受け取った川井
決勝の相手は、JOCアカデミー出身で昨年12月の全日本選手権で初優勝を遂げた村田夏南子(日大)。吉田沙保里に迫る選手として期待されていた若手成長株だ。
両者は昨年12月の全日本選手権の準決勝でも対峙し、川井が第1ピリオドを先取。第2ピリオドも開始1分で5-0とリードを奪って村田を追い詰めた。だが、「弱気になってしまった」と攻撃の気持ちがにぶり、そこから村田の足技にかかってまさかのフォール負け。大量リードしながら大逆転劇を食らってしまっていた。
■オリンピック出場を目標に階級アップを敢行!
周囲は川井に2つの注文を出した。「気持ちが弱すぎる」。そして「まだ55kg級に挑戦するのは早すぎたんだ」-。
約3ヶ月ぶりに対戦した川井(青)と村田
川井の決意は固く、栄監督や世界選手権の出場経験がある母・初江さんが説得しても「55kg級でもうやっていく」の一点張りだった。
その固い決意は吉と出たようだ。川井が照準を定めていた2020年五輪にレスリングが採用されない可能性が出てきたからだ。川井は「2016年の次を狙えるぞ、と言われていたのですが、リオの次を待つ場合ではなくなった」と、五輪挑戦プランを大幅に修正。結果的に12月から階級をアップしたことは、2016年を本気で狙うには、“プラス”と働いたのだ。
■徹底したビデオ研究で打倒・村田を果たす
今回は“災い転じて福となす”ということがもう一つあった。川井は2週間前に右ひじのじん帯を損傷し、最終調整を思うように行えなかった。「負担をかけないように階級下の選手とばかり練習していたので、村田選手に勝つことは無理だなと思っていた」と焦りを感じていたが、練習時間を割けない分、ビデオ研究をしっかり行ってきたことが功を奏した。
試合に勝ち、力強いガッツポーズの川井
序盤から片足タックルを積極的に出して、何度も村田の足を取り、村田が差してくると、小手を振ってグラウンドに持ち込んだ。川井は終始攻勢をとって村田を追い詰めていった。第3ピリオドはボールピックアップにもつれたが、攻撃権を取られても慌てず、村田がタックルを持ち上げようとしたところで、足をかけてつぶして3点。全日本選手権の借りを返すとともに、世界ジュニア選手権(8月、ブルガリア)の代表に大きく前進した。
優勝を決めた瞬間は、「一番先に優勝を伝えたかった」と、観客席から終始声援を送っていた初江さんに向かって右手を突き上げてガッツポーズ。全日本女王を倒した川井は、「次の目標は6月の全日本選抜選手権です。吉田選手との勝負、頑張ります!」と五輪3連覇の真の女王との対決に気合を入れた。