2013.02.20

「ニューヨーク・タイムズ」紙もレスリング擁護の主張を展開

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

  レスリングの2020年五輪からの除外問題が全世界に波紋を呼んでいるが、米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙もこの問題に積極的に取り組んでいる。

 国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で2020年五輪からのレスリングの除外勧告がニュースとなった翌13日には、「ピンポン外交を覚えているかい? レスリング外交は?」との見出しで、政治的に対立している米国とイランが共闘してレスリングを守る可能性を示唆。15日付には「なぜレスリングがオリンピックから消えるのか?」との見出しで、元レスリング選手の作家ジョン・アービン氏がこの問題を執筆した記事を掲載している。

■レスリングを通じて米国とイランが共闘へ

 同紙は、レスリングがイラン最大の国技であることを紹介。除外勧告の決議が伝わるや、イランのレスリング関係者が他国と団結してレスリングを守る意思を示したと報じた。同国のレスリングの要人であるモハメド・タバコール氏(前国際レスリング連盟理事)の「米国、ロシア、トルコ、日本、中央アジアはかの国々と共闘でレスリング除外の勧告と闘う」とのコメントを紹介している。

 同紙の見出しで扱われている「ピンポン外交」とは、1971年の卓球の世界選手権(名古屋市)で、国交のなかった中国と米国が交流し、国交正常化につながった歴史的な出来事。今回の見出しは、レスリングを通じて米国とイランの関係が好転する期待をこめたものと思われる。

 イランと米国は1979年から約20年間、国交が断絶していた。1990年代には米国で行われたワールドカップでイラン選手が米国に入国するなど、レスリングを通じて雪解けが進み、1998年には米国選手がイランの大会に参加して交流が再開した。

 その後、9・11同時テロが発生。このテロはイランが仕掛けたわけではないが、イスラム圏と米国との関係が悪化。2002年にイランで行われた世界選手権で、米国は「選手の安全が保障されない」として不参加するなど、関係は冷えている。

 同紙は、レスリングが五輪競技から除外されることは、「スポーツが政治に勝つ機会の損失」と主張し、レスリングの存続を望むニュアンスで締めている。

■IOCの決定に疑問を投げかけるも、FILAにも原因あり!

 作家のジョン・アービン氏は、レスリングが古代オリンピックから続く伝統あるスポーツであり、第1回近代オリンピックから続いている競技であることを紹介。今回の国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で、除外候補ナンバーワンの近代五種と対比している。

 近代五種は、ロンドン五輪ではわずか26ヶ国の参加しかなかったのに対し、レスリングはメダルを獲得した国だけで29ヶ国。全世界でのテレビ視聴者数は、レスリングが平均2300万人(注=1日平均と思われる)であるのに対し、近代五種は1250万人だったという。

 また、「IOC理事会に国際近代五種連盟のアントニオ・サマランチ・ジュニア副会長がいることを、どう考えるか?」と疑問を投げかけ、レスリング界では、この決定はサマランチ理事の影響との指摘が広まっているとしている。しかし、多くの協会が国際レスリング連盟(FILA)の怠慢を非難しているとも主張している。

 もし、IOC理事会の勧告をIOC総会が受け入れてレスリングを五輪競技から除外するなら、「多くの高校と大学のレスリング選手を失望させる」と懸念している。米国では、高校のレスリング選手数は約27万人で、大学では1999年以来、95大学がレスリング部を新設し、女子チームも21あるという。

 一方、レスリングの国際ルールにも問題があると問題を提起している。FILAのレスリングが米国のカレッジ・レスリングほど人気がないのは、その難解なルールゆえとし、特に同点に終わった場合のボールピックアップやクリンチから延長戦をスタートするやり方が競技を分かりづらくしていると主張。

 ロンドン五輪の米国代表選考会では、延長戦にもつれるたびに1万4000人の観客からため息があがったという。前述のルールはテレビ受けしないとしている。