2013.01.15

【全日本マスターズ選手権・特集】往年のグレコローマン天才選手が復帰…宇野勝彦さん(三重・四日市クラブ)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

全日本マスターズ選手権の61~65歳55kg級は、1977年にグレコローマン52kg級で全日本王者に輝いて世界選手権代表にもなった宇野勝彦さん(三重・四日市クラブ)が2試合にフォール勝ちして優勝(右写真)。7年ぶりの出場を飾った。

 宇野さんは元全日本王者という肩書とともに、全日本学生選手権で史上初めて1年生でグレコローマン王者についた選手。今以上にフリースタイルが主流だった時代に、大学1年生で学生王者に輝いたのだから偉業と言える成績。その後、四日市四郷高校と四日市ジュニアクラブの監督として指導の面でも活躍している。

 第一線を退いたあとも全国社会人オープン選手権に出場するなど、“レスリング・ラブ”を貫いてきた。2002年に全日本マスターズ選手権がスタートした時は、「やったー」とばかりに参加を申し込み、勇んで出場した。

 しかし、国士舘大の監督の朝倉利夫さん(国士舘大)に“野望”を打ち砕かれた。朝倉さんは宇野さんの数年あとにグレコローマン同級の全日本王者に輝き世界3位へ。モスクワ五輪の幻の代表となったあと、フリースタイルで世界王者に輝いた万能選手。何もさせてもらえずに第1ピリオドでフォール負けし、「自信をなくしてしまいました」-。

 体重が現役時代とほとんど変わらない50kg代の前半であるにもかかわらず、最軽量級が60kg級だったことも負けた一因なのだが、どんな理由があっても「試合で負けるのは嫌だ」という気持ちがマットを遠ざけていた。朝倉さんと年齢の区分が違った2005年に51~60歳60kg級に出場して優勝しているが、“闘い”の現場からは遠ざかっていた。

■還暦を機に、来年以降の出場を宣言

 今回、出場に踏み切ったのは、55kg級という階級ができたことのほか、キッズ教室で自身も汗を流している保護者の中に「試合に出てみたい」という希望者がいたこと。「還暦を機に出てみよう」となったという。

 久しぶりの試合は「緊張しましたね」と言うが、元全日本王者の実力はずば抜けていた。どんな試合でも全力を尽くさなければ相手に失礼だという気持ちもあって、2試合ともあっという間のフォール勝ちという内容へ。「(手加減をしないのは)大人げない、とも言われましたけど、マットの上では力を抜けない人間なもので…」と笑う。

第1試合はトルコ刈りという脚を使った技でのフォール勝ち。グレコローマンの選手らしからぬ技だったが、「偶然、そういう体勢になっただけです。でも、大学1年生の時のインカレはフリーでも3位に入っているんですよ」と胸を張る。

 この3月には定年退職となり、これまで以上にレスリングにかける時間がとれることになる。「いま約60~70人いる四日市ジュニアを100人くらいにまでのクラブに育てたい」という希望があり、そのためにも自分が実践してみせることの必要性を感じている。「粗食に耐える体になっているので体重は増えません。あいた時間でランニングの量を増やしたい」と、“現役復帰”を機に気持ちが盛り上がり、来年以降の出場も宣言した。

 衰えぬ情熱で、いつか朝倉さんにリベンジしたいという気持ちは? その問いには、「まったくありません。オリンピック代表だった選手の強さは違いますから」-。