2012.12.31

【全日本選手権・特集】大苦戦の2試合で、さらに強くなる!…女子55kg級・村田夏南子(日大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

苦戦の末に初優勝を決めた村田

 薄氷を踏む思いの全日本チャンピオン-。全日本選手権の女子55kg級は、昨年2位の村田夏南子(日大)が決勝で学生チャンピオンの浜田千穂(日体大)を2-1で破って初優勝を遂げた。

 村田は、昨年の同大会の決勝で吉田沙保里(ALSOK)からタックルでポイントを奪うなど善戦し、マスコミからも大きく注目された。吉田を脅かした実力は本物で、今季は海外試合で大ブレーク。

 1月のヤリギン国際大会(ロシア)、2月のアジア選手権(韓国)、9月の世界ジュニア選手権(タイ)とゴールデングランプリ決勝大会(アゼルバイジャン)の4大会で優勝(昨年の世界ジュニア選手権を合わせると5大会連続)。ポスト吉田としてふさわしい実績を積んできた。
 
■2016年リオ、“2020年東京”に向けてのライバル物語の始まりか

 今大会、吉田が五輪を合わせた世界13連覇を達成し、休養を兼ねた欠場が明らかになると、周囲は村田の初優勝にがぜん期待した。「きっと、村田の一人勝ちだ―」。

あわやフォール負けのピンチもあった準決勝の川井戦

 だが、「女王のいぬまに…」と気合が入るのは他の選手も同じこと。準決勝、決勝と、先に追い込まれたのは村田の方だった。

 9月の世界女子選手権51kg級7位の川井梨紗子との準決勝。ピリオドスコア1-1で迎えた第3ピリオド、村田は序盤から川井の片足タックルに苦戦。2度のタックルを受けて0-5とテクニカルフォール負けまであと1点と追い込まれてしまった。

 村田のセコンドは判定を不服としてチャレンジ(ビデオチェック要求)を出したが、村田は「もし判定が変わらなかったら、相手に1点が入って(6点差となって)試合が終わっちゃう」とチャレンジを取り下げ、残り1分で5点を追いかける選択をした。

 ここで、5点をリードした川井が「勝ったと思ってしまった」と油断。村田は必死に攻め、大内刈りで川井の体勢を崩し、川井が苦し紛れにタックルに入ったところを通称“牛殺し”で押さえこみ、そのままフォールへ。「(柔道の先生だった)死んだおじいちゃんが降りてきたと思った」と、村田本人も信じられないほど神がかった逆転劇だった。

■決勝でも残り5秒で逆転

第3ピリオドの残り5秒、大内刈りからテークダウンを決めた

 決勝も全日本学生チャンピオンの浜田を相手に苦戦した。ピリオドスコア1-1で第3ピリオドに持ち込まれ、場外際まで攻めめ立てるが、体勢を入れ替えられて押し倒され、40秒のところで痛恨の1失点。村田は「焦らないようにしていたけど、自分が攻めようと気持ちで前に出ていました」と、必死で浜田を追いかけた。

 勝負が決まったかに思えた残り5秒。日体大サイドからはカウントダウン。日大サイドからは悲鳴が上がる中、村田が出したのは、準決勝に続き、柔道時代から得意技としていた大内刈り。テークダウンで1点を奪い、1-1のラストポイントで村田が辛勝。優勝を決めた。

 圧勝を予想していた周囲とは裏腹に、負け試合を拾うかのように勝ち上がった村田。準決勝の0-5からの逆転フォール勝ちや、決勝のラスト5秒からの逆転勝ちなどの勝負強さに、吉田に代わるエースの風格を感じさせたが、村田は「課題の残る試合ばっかり。反省して次に向けて頑張らなければ、次は勝てないと思いました」と反省しきりの言葉を連ねた。

 6月にはひざの手術を敢行しながらも海外試合では負けなしの4大会連続優勝の結果を出したこの1年間を振り返ると「けがから復帰してこの大会に出られたことだけでも、今年を振り返るとうれしいです」と、満足な一面もあったようだ。

女子の最優秀選手賞を受賞

■気持ちを入れ直し、来年6月、吉田沙保里に挑む!

 いよいよ来年6月には吉田との再戦が待っているはず。「まだ自分にはもろさがある。今のままじゃ世界に出られないと思うので、あと6ヶ月、気持ちを入れ直して練習したい」と気持ちを引き締めていた。

 万事塞翁が馬(ばんじさいおうがうま=幸せが不幸に、不幸が幸せに、いつ転じるかわからないこと。今よくないと思ったことが、あとになって「よかった」となること)。今大会、万事休すに陥った2試合が、村田をさらに強くするに違いない。