※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
優勝を決め、満面の笑みの森下
「とりあえず、優勝できてよかった」と開口一番にはなすと、2年連続学生王者だった父・敏清さんが果たせなかった全日本王者になり、「やっと父親を超せました」と会心の笑顔を見せた。
森下は組み合わせを見て、決勝の相手に、2010年世界選手権3位で高校の大先輩でもある稲葉泰弘(警視庁)を予想していた。組み手上手な稲葉に森下は苦手意識があり、事実、6月の全日本選抜選手権では0-2で敗退している。
■高橋侑希や守田泰弘との激闘を潜り抜けて決勝へ
今大会、森下が優勝するためには大きな壁だと思われた。だが、稲葉は練習中のけがの影響もあり、準決勝で敗退するアクシデントが発生。
決勝で半田を攻める森下
稲葉が負傷で本調子ではなかったことは、結果的に森下の優勝に追い風が吹いたことになったが、決勝までの道のりは“試練”と言ってもいいほど厳しいものだった。
初戦は、高校3年からライバル関係の高橋侑希(山梨学院大)と対戦。今年6度目の対決で、森下は過去ここまでの5試合を4勝1敗と大差で勝ち越していたが、森下が「大事なところで負けた」と振り返るように、11月の全日本大学選手権では準々決勝で1-2で敗れて学生2冠王者を逃した。
全日本大学選手権の2週間後に行われたユニバーシアードのプレーオフでは高橋にリベンジ。今大会も第2ピリオドではローリング地獄に追い込んでテクニカルフォールを奪うなど、今シーズン最後の対決を白星で収めた。
■同門の守田を破って勢い乗った
次なる試練は準決勝の守田泰弘(アールシースタッフ)との対戦だった。守田は日体大の先輩で、日常の練習相手でもある。「手の内を知り尽くされている」と、研究熱心な守田に、今年の岐阜国体、昨年の山口国体と、ともに準決勝で接戦ながらも敗れている。
今大会も第1ピリオドを落とす苦しいスタートだったが、自分の目の前で稲葉が敗れたこの好機を逃すわけにはいかなかった。第2ピリオドを5-1で取り返し、第3ピリオドに持ち込んだ。
準決勝の第3ピリオドの終了間際、万事休すの状態から森下(赤)が逆転勝ち
「終わった…」という気持ちが一瞬よぎったが、森下は場外際までひざを着かずに持ちこたえた。そこでテークダウンをあきらめた守田が、ローリングに移行した瞬間をうまく巻いて2点をゲット(最初は守田に点数が入ったが、チャレンジで森下の2点に修正)。苦手意識のあった守田の壁を越えた。
準決勝を超えた時点で、森下はある記録を超えた。3年前、高校3年で出場した同大会の2回戦で前年優勝湯元進一(自衛隊=後のロンドン五輪銅メダリスト)を破って17歳で全日本3位に入賞した自分を超えたのだ。
「このままリオデジャネイロ五輪まで負けないで、自分が代表となってメダルを獲りたい」―。次世代のエースとして自覚が芽生えた森下だった。