2012.12.29

【全日本選手権・特集】自己プロデュースのシングレットで初戴冠…男子グレコローマン60kg級・倉本一真(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

優勝を決め、小さくガッツポーズの倉本

 やっとつかんだ栄光だ! 全日本選手権の男子グレコローマン60kg級は、ロンドン五輪で銅メダルを獲得した松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)の壁に阻まれて2番手が多かった倉本一真(自衛隊)が初戴冠した。

 倉本は開口一番、「優勝してホッとしている。やっと勝てました」と安堵の表情。さらに、「高校時代からいつも隆太郎選手に負けていましたけど、今大会は隆太郎選手が出場しないので、自分が勝たなければと思っていました」と、優勝する自覚が芽生えていたことも明らかにした。

■松本隆太郎のいない全日本選抜で優勝のはずが…

 本音を言えば、倉本は半年前の全日本選抜選手権で、全日本レベルでの初優勝を狙っていた。3月のロンドン五輪予選(カザフスタン)で松本が出場枠を獲得するとともに、日本代表に決定。6月の全日本選抜選手権は欠場したため、全日本選手権2位の実績を持つ倉本にとって初優勝のチャンスが巡ってきた。

 だが、準決勝で55kg級から階級を上げてきた峯村亮(神奈川大職)に0-2で、まさかの敗退。第1ピリオドはスタンドから投げられてビッグポイントの3点を失い、第2ピリオドも0-1で落とすなど、元55kg級全日本2位の選手に完敗だった。

 その屈辱からの再起。“半年ほど遅れた優勝”を手にした倉本は「全日本選抜選手権ではコケてしまったので」と話し、その悔しさをバネにして今大会の優勝をつかんだ。

 今大会の決勝の相手は、その6月に苦杯をなめさせられた峯村。「峯村選手は自分が55kg級時代のライバルだった相手。気を抜いたら駄目だと言うことが分かった。今回は気を引き締めて落ち着いてやれました」と、欠場の銅メダリストに対して闘志を燃やすのではなく、目の前の敵に100パーセント集中することを心掛けた。

 集中力を高めた倉本は、全日本選抜選手権とは逆に、第1ピリオドにスタンドから峯村の腕を極めて投げ技やローリングを次々と決めると、第2ピリオドでは1-0で取り、峯村にリベンジを達成した。全試合無失点の完勝も「自分の持ち味である大きな技が出せなかった」と反省も忘れなかった。

決勝は第1ピリオドから積極的に技を繰り出した

■すでに4年後をしっかり見据えている

 倉本は松本と同じ1986年生まれで(学年は松本が上)、ロンドン五輪を本気で目指してきた選手。それだけに、松本がメダルを獲り、現在選手活動を休養している姿を横目にしてモチベーションが続くのかがどうかが、今大会のかぎだった。

 その心配は無用のようだ。「(次世代のホープとして期待されて)自分はいつか優勝できるという自信があったから頑張れました。オリンピックが自分の目標」と、4年後をしっかりと見据えている様子をうかがわせた。ただ、上ばかりは見ていない。6月に峯村に敗れた失敗を二度と繰り返さないためにも「1試合1試合、頑張っていきたい」という堅実さも忘れなかった。

 今大会、倉本を奮い立たせたのは、自らプロデュースしたシングレットだ。メーカーと“強力タッグ”を組み、素材やデザインを自ら選び、サイズもミリ単位で調整するフルオーダーで制作した。

 「ロシアのナショナルチームのデザインが好きだったので、それをモチーフに夏から何か月もかけて作った」と自慢の一作。「シングレットは自分の仕事着なので、自分が気に入ったものを着れたらモチベーションも上がる」と話し、優勝した一つの要因だった。

 松本は、進退を明言していないが、この1月で27歳の年齢からして、6月には復帰する可能性が高い。「このシングレットを着て、今度こそ勝ちたい」。倉本はキッパリ宣言した。