※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)
3年ぶりの全日本選手権で闘う西牧
結果は初戦を突破したものの、2回戦(準々決勝)で第2シードの渡利璃穏(至学館大)にストレート負け。「2年間で自分が弱くなっているのが分かった」と淡々と語った。
■2010年、バセドー病に襲われた
西牧が長期戦線離脱を余儀なくされたのは病に侵されたからだ。バセドー病という筋肉の低下や頻脈(ひんみゃく=心拍数が増加している状態)を招くアスリートにとっては選手生命を脅かす大病だった。
「2010年の初めごろから体調が悪くなって、だんだん練習についていけなくなった。おかしいなと思いつつ、発見が遅れてしまった」。最初はただの体調不良と考えていたが、同年末のアジア大会(中国)でも体が動かず、あまりにおかしいので診断を受けてみると、バセドー病だと判明した。
競技を続けるかどうかという迷いを乗り越え、競技復帰を決意。国立スポーツ科学センター(JISS)でトレーナーについてもらい、脈をコントロールしながらのリハビリをスタートさせた。今年4月には早大の大学院に進学。体のことを勉強しようとスポーツ科学を専攻した。
「自分の体のことを把握していなかったので、病気の発見が遅れたところもある。体調管理やコンディショニングなどをしっかり学びたいと思いました」。リハビリをしながら勉強にも励み、病気と正面から向き合った。
あわやフォール負けのピンチも。しかし、一歩ずつ階段を昇る!
努力のかいあって、大学院進学直後にレスリングのトレーニングを再開するまでに回復した。7月の全日本社会人選手権で大会復帰。10月の全日本女子オープン選手権は優勝。今回の全日本選手権で再びトップレベルのマットに立つことができた。
現時点での実力は、世界選手権で優勝したころに比べると「20パーセントくらい」。それでも、復活を遂げた元世界チャンピオンに焦りはない。
「レスリングをやると決めたからには中途半端にはできない。まだ大きな目標を言えるレベルではないので、一段一段順番に階段を上りたい。いまは生きていることに感謝する気持ちもあります」
一度は絶望を味わった西牧が、第2のレスリング人生を歩み始めた。