※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)
第1ピリオドを0-3で取られ、第2ピリオドは3-2と接戦を制した。第3ピリオドをボールピックアップで優先権を得て、タックルを決めて全日本初優勝を決めた女子51kg級の菅原ひかり(至学館大=右写真)は、マット上で「えり、やったよ」と叫んだ。叫んだ時は笑顔だったが、その笑顔は次第に感涙の泣き顔に変わっていった。
■登坂を追って至学館高校へ
菅原が叫んだ「えり」とは、家族や親戚ではなく、前日に48kg級を制した登坂絵莉(至学館大)のこと。なぜ、登坂の名前を叫んだのか!?
「至学館高校に行こうと決めたのも、絵莉が行くということを聞いて、決めたようなものでした。彼女とは一緒に強くなろうと誓い合ってきましたし、きのうの絵莉の優勝は、私にとってとても励みになりました。絵莉は全日本選抜選手権でも優勝していましたから。いつか追いつこうと思って練習してきました」
励みにはなっても、必ず勝てるものではない。決勝の相手は昨年の全日本選手権決勝で敗れている宮原優(JOCエリートアカデミー/安部学院高校)。当然、厳しい展開になることは想像できていた。それだけに、普段の練習に+αを考えた。試合映像を振り返ることだった。
菅原は「いつもは負けた相手の映像を振り返ることなんてしません。今大会は、絶対勝ちたい相手が宮原さんだったので、去年の宮原さんとの全日本の決勝の試合映像を繰り返し見て、研究や確認をしました。少しはその成果もあったのではないかと思います」と試合後に話した。
決勝の第3ピリオド、テークダウンを決めた菅原(青)
2年連続で全日本選手権の決勝の舞台に上がりながら、2年連続で手が届かなかった頂点の座。3度目の正直でやっと手に入れた菅原。次の目標は世界選手権だ。今大会の優勝は、まだ日本代表の座を射止めたわけではないが、登坂が先に世界選手権で結果を残していることも刺激材料だ。
「絵莉が今年の世界選手権で入賞(2位)していますから、私も来年続きたいと思っています」。練習仲間でもあり、階級の違うよきライバルである登坂絵莉と2人で世界選手権に挑み、ダブル優勝を果たせば、1993年生まれの2人にとって、2014年1月にある成人式は忘れることのできないイベントになるに違いない。
2人で、この夢に向かって突き進む!