※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
日本男子レスリング界の長年の課題だった重量級の強化。グレコローマン96kg級は2008年北京五輪で加藤賢三(自衛隊)、今夏のロンドン五輪で斎川哲克(両毛ヤクルト販売)が連続で出場を果たし、着実に前進している。
今回の全日本選手権は、五輪出場組が軒並み欠場する中、斎川が同級にエントリーした。斎川に挑む選手の中で、注目すべきは山本雄資(警視庁=右写真)だ。
■在学中の2008年に全日本選抜選手権を制覇
中学時代は柔道で鍛え、高校でレスリングに転向。国体2位の成績をおさめて山梨学院大学に進学。4年生の時(2008年)に全日本選抜選手権も制覇。その後、学生二冠(全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン)を勝って翌年、警視庁へ進んだ。
警視庁の重量級には、全日本選手権を 度制した小平清貴(フリースタイル96kg級=現全日本コーチ)を筆頭に重量級のトップ選手が数多く在籍しており、山本もそうなるべくして選ばれた存在だった。しかし、厳しい状況が続く。卒業前の2008年全日本選手権では、一つ年上で力をつけていた北村克哉に破(当時FEG)れて3位。社会人となってからの2009年全日本選手権でも決勝で北村に敗れて2位。翌2010年は決勝にも上がれず、低迷を続けた。
2011年の全日本選抜選手権の準決勝では、またもや北村に敗れ3位に終わった。しかし北村のドーピング違反により、北村の優勝が取り消され、同大会の準決勝に進んだ3選手に世界選手権出場のチャンスが訪れた。
2011年世界選手権をかけたプレーオフ。初戦に勝ったが…
■なぜか勝負どころでチャンスを生かせない
世界選手権代表を逃したものの、ロンドン五輪へは2011年の全日本選手権で優勝することで五輪予選に出場する道が残っていた。満を持して迎えた決勝。相手は急きょ階級を上げてきた斎川。結果はピリオドスコア0-2で斎川の圧勝。2位でも五輪予選出場の可能性がわずかに残っていたが、斎川がアジア予選で五輪出場枠を獲得。山本のロンドン五輪への挑戦は実現することなく終わった。
すぐに2016年リオデジャナイロ五輪に向けて動きだした山本。そこまでを振り返り、「スタミナも力も、他の選手より自分が勝っているとは思わないけど、相手にあって自分にないものがあるように、相手にはなく自分にあるものもある。そんなに差があるわけではないと思う。でも、練習でできていることが、試合でできなかった」と、試合へ臨む気持ちの強さや持ち方にも課題を見い出した。
今年6月の全日本選抜選手権は、五輪出場が決まっていた斎川は不出場。昨年のプレーオフに出場した山本、有薗、森の3人が優勝候補と言われていた。しかし、またもや不覚を取ることになる。準決勝で実績で劣る大坂昂(早大)に敗れて3位に。そのことに触れると、「結果が全てなので、実力で負けたと思われても仕方ないと思います」とうつむく。
■見つめているのは斎川の背中ではなく、リオデジャネイロ五輪
全日本社会人選手権で勝った山本。このあと、国体でも優勝
山本が見つめているのは、ロンドン五輪に出場した斎川の背中ではない。「優勝しなければ意味がない。オリンピックを目指すに、はまず世界選手権に出なければ。そのためには国内の優勝です。代表になって、まずは(自身の)アジア選手権最高の5位を塗り替え、メダルを獲ってオリンピックを目指したい」と話す。
昨年96kgしかなかった体重も、104kgまで増えた。パワーもつき、「自分でも強くなったと実感がある。勝ちたいというか、勝たなければと思っています」と気持ちは高まっている。「今度こそ」の思いは誰よりも強い。悲願の全日本優勝で世界進出の第一歩を踏み出せるか。