2012.12.15

【全日本選手権にかける(4)】女子55kg級・村田夏南子(日大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 五輪3連覇を含む世界13連覇を達成し、レスリング界史上初の国民栄誉賞を受賞した女子55kg級、吉田沙保里(ALSOK)。五輪と世界選手権のあとの今年の全日本選手権は、さすがの女王でも休養で欠場するため、今大会は吉田以外の選手が戴冠することになる。

 その筆頭が、女子55kg級で国内ナンバー2の座にいる村田夏南子(日大=右写真)。柔道の全国中学チャンピオンのバックボーンを武器に、高校からJOCアカデミーでエリート教育を受け、すぐさま才能が開花。レスリング歴2年で全日本選手権決勝の舞台を踏んだ。

 昨年のこの大会の吉田との決勝は会場を沸かせた。吉田相手に果敢にタックルで前に出てポイントを奪うなど善戦。ピリオドスコア0-2で敗れたものの、内容的は村田が押していたのは明白だった。わずか数年のレスリングキャリアで“霊長類最強”の吉田と競り合ったことで、2016年リオデジャネイロや、東京が招致している2020年五輪の期待の星として、世代交代を期待する声も大きくなってきた。

■国際大会で4大会連続優勝

 今季は国際戦でも大躍進し、ポスト吉田に収まるだけの実績もついてきた。国別対抗戦の女子ワールドカップも入れて今季出場した国際試合は5大会。個人戦は、1月のヤリギン国際大会(ロシア)、2月のアジア選手権(韓国)、9月の世界ジュニア選手権(タイ)、9月のゴールデングランプリ(アゼルバイジャン)で、その4大会で優勝という成績を収めた(前年の世界ジュニア選手権から合わせて5大会連続優勝)。

昨年の大会で吉田沙保里を追い積めた村田(青)

 しかし、当の本人の気持ちは至って冷静だった。「(昨年の全日本選手権で)吉田選手からポイントは取りましたけど、負けは負けです。本番でうまく噛み合っただけだと思っています。普段の練習ではボコボコにされて、まだ(実力が)足りないなと思います」

 国際戦で4つの“金メダル”を手に入れても「課題の残る試合がけっこうありまして…」「危ない試合をしてしまって…」と反省の弁。常に精進する気持ちがあるからこそ、村田がこの4年でポスト吉田にまで成長したのだろう。

 吉田のことを「尊敬している」と敬意を表し、五輪3連覇の偉業を素直に感動を覚えたようだ。

 全日本選手権は、「誰が出るとか関係なく、自分の試合を1試合ずつ大切に戦って優勝したい。守らずに、思い切り攻めにいこうと思う」と話し、打倒吉田と騒ぎ立てる周囲とは裏腹に、着実に自身のレスリングの確立を目指していた。

■投げ技中心の闘いから、タックルで攻めるレスリングへ

 レスリングの競技歴が浅いこともあり、村田の闘い方はここ数年で大きく変化している。当初は柔道からの転向もあって投げ技を中心とした展開が多かったが、今季はキッズ上がりの選手にもタックルで応戦して勝利するなど、“王道のレスリングスタイル”も展開できるようになってきた。

 「タックルに入るタイミングは分かってきましたが、その時、自分が入れる態勢になってない時があります。今は、相手が崩れた時、いかに自分が入れる体勢になっているかを練習しています」。タックルが攻撃面で口火を切る技となるため、村田が力を入れている部分のようだ。

伊調馨と並んで金メダルを掲げる村田(右=2011年ヤリギン国際大会)。目指すはリオデジャネイロでの再現!

 その根本を支えるのが“基本”の反復練習だ。「力を入れている練習はきちんと構えること。そのほかにも基本的なことを多くやっています」と、小手先のテクニックに頼らず、土台をしっかりと作り上げている。

 またグラウンド技については「(試合を制するためには)重要だと思っている」ときっぱり。グラウンドはメンタル面も大きく影響するとのことで、「気持ちだけ先走ってローリングをかけると、すっぽ抜けてしまうので、しっかりポジションを決めてから技をかけるようにしたい」と課題も上げた。

 今年6月の全日本選抜選手権は右ひざの半月板損傷の手術のため欠場した。「9月の世界ジュニア選手権に照準を合わせたかった」と話し、前進するための欠場だった。6月に手術したことはベストタイミングで、今では大きな故障に悩まされることはなくなった。「国内で勝てないと世界選手権に出ることができないので、しっかりと勝てるようにしたい」。

 村田がいよいよ、全日本選手権の頂点を獲りに行く。