※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=保高幸子)
6冠を達成させるわけにはいかなかった! 全国中学選抜選手権の男子59kg級は、昨年2位の梅林太朗(JOCエリートアカデミー=右写真)が決勝で成國大志(ゴールドキッズ)を2-1で下して初優勝。成國の3年連続二冠(計6冠王)を阻止する金星を挙げた。
全国少年少女選手権を5度優勝し、鳴り物入りで昨年4月、同アカデミーに入校。昨年のこの大会で1年生ながら準優勝の成績を収めた。しかし梅林にとっては悔しさだけが残ってしまった。「(今大会は)最後まで気を抜かずに、自分のレスリングをしようと思いました」。
昨年乗り越えられなかった決勝の舞台で対峙したのは、今年6月に史上5人目の全国中学生選手権3連覇を達成し、この大会も2連覇中で“中学六冠”がかかった成國大志だった。梅林は2年生で、成国は3年生。1歳上の“タイトルホルダー”を相手に、梅林は「絶対に勝てるとは思わなかったけど、決勝まで行ったら、あとは気持ちなのでやるしかないと思った」と覚悟を決めた。
決勝戦、第2ピリオドから粘った梅林(赤)
成國との対決は回避できるはずだった。梅林は昨年から59kg級で闘っていたが、減量が5kg以上になったため、9月の関東中学大会を最後に今大会から66kg級に階級を上げる予定だった。だが、最後と思って臨んだ59kg級の試合で結果を残せず、「負けたままで階級を上げるわけにはいかない」と、急きょ今大会も59kg級にエントリーした。
そのため、きつい減量に耐えなければならなかった。「関東大会で体重を落としてから、ずっと節制してきた」と、優勝の2文字のためにすべてをかけてきた。
第1ピリオドの立ち上がりは、成國にあっさりとバックポイントで1点を取られた。梅林は「もう、ダメだと思った」と弱気になってしまったが、そんな梅林を救ったのがセコンドの江藤正基コーチだった。「セコンドの江藤コーチが攻めろって言ってくれて…。『(階級を上げてきた成國より)体が大きいんだから、圧力をかけて前に前に出ろ!』と言われた」。
信頼するコーチの一言で強気を取り戻した梅林は、第2ピリオドからエンジン全開。序盤に0-2と追い込まれるも、中盤に返し技からの攻撃で3点を奪って逆転。第3ピリオドも梅林が序盤に1点を奪ってリード。追いかける成國が焦って打ったがぶり返しを冷静につぶし4-0。ピリオドスコア2-1で全国大会3連覇の王者を破って優勝を決めた。
■6月の全国中学生選手権で屈辱の負傷棄権負け
第3ピリオドまでもつれた末、梅林(赤)が激戦を制した
この話になると、「ずっと悔しくて…」と目頭をぬぐいながら声を絞り出した梅林。そんな思いからか「やっぱり成國選手に六冠をとらせるわけにはいかなかった」と振り返った。
この日は成國戦以外にも苦しい闘いばかりで、「残り20秒まで負けていた試合もあった。(優勝は)気持ちで取ったのかな」と振り返る。紆余曲折を経てつかんだ栄光に最後は安堵の表情を浮かべ、来年こそ中学2冠王者を目指すと宣言した。