2012.11.14

【全日本大学選手権・特集】8月のロンドンがレスリングへの意識を高めた…74kg級・嶋田大育(国士舘大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 ジュニアレベルから飛躍! 全日本大学選手権74kg級は、全日本学選手権(インカレ)優勝の嶋田大育(国士舘大=右写真)が決勝で松田健吾(青山学院大)を2-0で破って初優勝。大学2年で学生二冠王に輝いた。

 国際レスリング連盟(FILA)ルールの組み合わせ抽選で実施される今大会の場合、シード制は採用されず、インカレ王者の嶋田とてシードではない。前日の計量時に決まった組み合わせは、2回戦が日体大代表の山中良一、3回戦がインカレ決勝の相手、北村公平(早大)。序盤から実力者と対戦するブロック。嶋田も「(強豪が集まったブロックで)うわ、どうしようと思った」と一瞬、ひるんでしまうほど。

 だが、「今大会はインカレと違って各大学から1名のみ出場と、選ばれた選手だけが出る大会。全員が同じ実力なので、自分も集中を研ぎ澄まして闘った」と、いつも以上に集中力を高めて臨んだ。

■グレコローマンで負けた北村公平(早大)にリベンジ

 3回戦の北村戦には、ぬぐい切れない不安要素もあった。約3週間前の全日本大学グレコローマン選手権で、決勝で北村に1-2で敗れていることだ。インカレでは飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち上がった嶋田だが、北村に連勝とはいかなかった。専門外のスタイルではあるが、負けたイメージは自分自身に染みついてしまう。「負けている流れで試合が行われてしまうのかなと思い、怖かった」と試合前の心境を吐露した。

北村公平と激戦を展開した嶋田(青)

 嶋田がとった作戦はチャレンジャー精神を持つことだった。「自分が強いと思うより、相手が強いと思い込んで思いっきりいった」。下がり気味だった全日本大学グレコローマン選手権とは真逆の攻めのスタイルで、前へ前へと足を進めた。第1ピリオドは3-1、第2ピリオドも1-1ながらコーションの差で取り、ピリオドスコア2-0で北村に“リベンジ”した。

 勢いに乗った嶋田は、準決勝の森達也(中大)戦をわずか1分5秒、フォールで下し、決勝では同じ東北出身の同期生で手の内を知り尽くしている青山学院大の松田健吾(秋田商高卒、嶋田は青森商高卒)相手に、第1ピリオドに両足タックルで場外ポイントを奪い、第2ピリオドは1点を先取されたが、中盤にタックル返しで2点を返すなどし、3-1で快勝した。

■力を出し切った優勝だが、返し技に頼った反省点も

 インカレでは優勝した直後は、腕立て伏せのパフォーマンスを見せ観衆を沸かせた。この日は「最初から最後まで強い選手ばかりで、(パフォーマンスの)余裕がありませんでした」と試合後はぐったり。力を使い果たした優勝だったことがうかがえる。決勝では返し技に頼る一面もあり、「返し技も悪くないけど、理想ではないです。(優勝は)うれしいけど、悔しい」と反省の言葉が飛びだした。

松田の猛攻に1点を許した嶋田(青)だが、最後は勝って二冠王達成

 会心の優勝とはいかなかったが、大学2年で二冠王者は評価に値する結果に違いない。今シーズン全体に話を向けると、急に表情が和らいだ。「4月のJOC杯は優勝するぞと思っていたけど、インカレは強い先輩たちもいるし、ここまでやれるとは思っていなかった。本当に優勝できてよかったです。飛躍の1年になりました」と最後は笑顔。

 日本男子勢が24年ぶりに金メダルを獲ったロンドン五輪に練習パートナーとして参加したことが、嶋田のすべてを変えた。「(レスリングに対する)意識が変わりました」。

 12月には飛躍の年を締めくくる全日本選手権が待っている。そこに待ち構えるのはロンドン五輪代表の高谷惣亮(ALSOK)だ。「まだ遠い存在。自分の特徴を生かして勝負したいと思う」と表情を引き締めた。