2012.10.23

【全日本大学グレコローマン選手権・特集】“怪物”前川勝利(早大)が復活! 学生初タイトル獲得

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=池田安佑美)

 重量級グレコローマンの未来のエースになる! 全日本大学グレコローマン選手権120kg級は、高校時代に五冠王者に輝き、昨年、大学1年で全日本選抜王者と国体を制した前川勝利(早大=右写真)が圧巻の優勝。決勝では、昨年の学生王者の村木孝太郎(拓大)を第2ピリオド、腰投げからフォールを奪って勝負を決めた。

■大学1年生で全日本選抜王者へ

 前川の大学デビューは鮮烈だった。入学して1ヶ月も経たない時にあった全日本選抜選手権で勝ち、18歳にして“日本の王者”へ。プレーオフで敗れて同年の世界選手権出場は逃すが、秋の山口国体でも優勝。怪物ぶりを見せつけるには十分だった。
 
 だが、11月の全日本大学選手権の決勝で拓大の村木と対戦し、内足じん帯断裂と深手を負ってしまった。即手術も視野に入れたが、翌年にロンドン五輪を控えた状況で、前川はわずかな希望にかけた。全日本選手権に出場し2位。今年2月のアジア選手権(韓国)にも出場した。
 

昨年4月の全日本選抜選手権で優勝した前川。順調な大学生活のスタートだったが…

 アジア選手権では初出場で5位と好成績を収めたが、メダルを逃したことで(予選への抜ってきの可能性が少なくなって)ロンドン五輪が遠のいた。ここで、ようやく手術を敢行。「11月にけがをして、翌年の2月まで頑張ってしまったので、内足じん帯に加えて、前十字じん帯も損傷してしまったんです」。
 
 医者は全治半年と診断。春から夏にかけてジュニアのトップ選手は、JOC杯やリーグ戦、新人戦などと続き、毎月のように試合があるが、前川はすべて棒に振ることになった。「ジュニアの試合に出られるのは最後の年。9月の世界ジュニア選手権にどうしても出たかったので、(術後すぐの)予選となるJOC杯に出ようと思ったんですが、医師に『もう、全日本選抜王者だし、ジュニアはいいじゃないか』と必死に止められました」。
 
 約半年のリハビリ生活を終えた前川に吉報が入る。10月の世界学生選手権の代表に選出された。「これで世界ジュニアの件はチャラだ」とすべてに前向きになれた。結果は初戦敗退だったが、海外で約8ヶ月ぶりの復帰戦をこなし、万全の態勢で今大会へ臨むことができた。

■進学後2連敗の村木にリベンジ

 結果は全5試合中4試合でフォール勝ち。決勝以外は無失点と完全復活をアピールした。決勝戦の相手の村木は大学に入って2連敗中だった。村木もこの半年間、病気のため戦列を離れていたが、強さはまったく変わっていなかった。前川より頭ひとつ小柄の村木は、第1ピリオドのスタンドで積極的に動き回り、前川を翻ろう。グラウンドの防御では、準決勝で痛めた左腕が機能せずに痛恨のローリングを受けて落とした。

腰投げからのフォールで、初の学生タイトルを獲得

 思わぬピンチに、第2ピリオドは得意のスタンドで勝負をつけようと、長く時間を割いて練習してきた四つからの攻撃を仕掛ける。素早い村木が相手でも、捕まえて組んでしまえば動きを封じ込めることができるからだ。
 
 四つに組んだ瞬間、前川の脳裏に浮かんだのが太田拓弥・早大コーチの言葉だ。―投げ技は足から行け!―。「今まで上半身で投げに行っていたのですが、太田コーチの指示を意識して練習してきた」と、村木をがっちりとつかんで足を踏み込み、投げ倒してそのままフォールを奪った。
 
 「やっと学生のタイトルを手にできた。『次世代のこの階級は自分がいる』とアピールしたかった」と前川。早大の怪物、前川が真の復活を果たした瞬間だった。