※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
決勝で豪快な5点リフト技を決めた田野倉
8月の全日本学生選手権でベスト4を日体大が占めた階級。部内の厳しい闘いを勝ち抜いて代表になった以上、優勝は当然で、負けは絶対に許されない状況だった。田野倉は「ふだん練習している相手が、他の大学とは違います。絶対に負けられない状況でしたね」と振り返る。
「ふだん練習している相手」とは、インカレでベスト4に入った選手のみならず、ロンド五輪に出場した長谷川恒平(55kg級)と松本隆太郎(60kg級)のことでもある。学生の大会で負けるわけにはいかなかったという表情がありありだ。
■オリンピックを目の当たりにし、本当に出たい気持ちが湧いてきた
部内の競争が激しい日体大では、大会直前まで代表を決めず、とことん競わせた階級もあった。田野倉は2週間前に代表に指名され、この大会に絞って調整してきた。全日本選抜選手権2位、全日本学生選手権優勝、国体2位という実績を残し、それだけ信頼が厚かったのだろうが、国体での2位は痛恨の敗北だった。
地元の清水早伸(自衛隊)相手に九分九厘勝利を手にしていた試合を落とした。第2ピリオド、あと十数秒を守れば勝てた状況だったのに、守りに入ってしまったことで勝利を逃した一戦だった。「最後まで攻める気持ちを持たなければならないと悔やまれました」と振り返るとともに、相手が社会人選手なので気持ちの面で負けていた面もあったと反省する。
優勝を決めたあと、見事な後方宙返りを披露
■長谷川恒平からの恩を返せるか
ロンドン五輪代表の長谷川はまだ進退を明らかにしておらず、もしかしたら大きな壁として立ちはだかるかもしれない。この日もマットサイドで大声で応援してくれており、長谷川のおかげでここまで来たという意識は強いが、もし現役続行なら、リオデジャネイロ五輪に出場するためには、倒さねばならない敵となる。
それであっても、リオデジャネイロへの気持ちが揺らぐことはなさそうだ。この世界では、世話になった先輩を倒すことを「恩を返す」と言い、礼儀でもある。受けた恩はしっかりと返さねばならない。「体力も技術もまだまだ。気持ちの面も含めて12月までしっかり練習し、(全日本選手権を)がんばりたい」と表情を引き締めた。