2012.10.19

【全日本大学グレコローマン選手権・特集】トンネル脱出! 3年ぶりに“全国王者”に返り咲いた74kg級・北村公平(早大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=池田安佑美)

決勝で勝ち、応援席へガッツポーズの北村

 「やっと優勝した!」-。全日本大学グレコローマン選手権の74kg級で優勝を決めると、北村公平(早大)はガッツポーズ。嶋田大育(国士舘大)より常に前に足を運び、プレッシャーをかけて場外へ押し出すなどして攻撃の手をゆるめなかった。

 フリースタイルを専門とする選手だが、太田拓弥・早大コーチの「グレコローマンから得ることも大きいから、練習は両スタイルを行う」という教えを忠実に守ってきたことがプラスに働いたようだ。

■高校五冠王者も、進学後は学生タイトルに手が届かず

 中学時代から“エリート街道”を走り、高校2年時(2008年)には高校五冠王者(全国高校選抜大会、JOC杯カデット、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体)。全国にその名をとどろかせた北村だったが、高校3年のインターハイ(1階級上に挑戦)でつまずき、大学1、2年生と学生タイトル無冠に終わっていた(東日本新人選手権の優勝はあり)。

 「大学に入ってからは、ずっと2位ばかり。“全国優勝”は高校3年の国体以来、丸3年ぶりです」と会心の笑みを見せた。

北村公平の進学後の学生大会の成績
大会名 階級 順位 優勝者
2010年 JOC杯ジュニアオリンピック 74kg級 3位 葈澤謙(国士舘大)
  東日本学生春季新人戦 74kg級 優勝  
  全日本学生選手権(グレコ) 74kg級 3位 武富隆(早大)
  全日本学生選手権(フリー) 74kg級 2位 高谷惣亮(拓大)
  全日本大学選手権 74kg級 2位 高谷惣亮(拓大)
  東日本学生秋季新人戦 84kg級 優勝  
2011年 JOC杯ジュニアオリンピック 74kg級 3位 嶋田大育(国士舘大)
  東日本学生春季新人戦 96kg級 2位 田中哲矢(大東大)
  全日本学生選手権(グレコ) 74kg級 2位 中村隆春(日体大)
  全日本学生選手権(フリー) 74kg級 2位 高谷惣亮(拓大)
  全日本大学グレコ選手権 74kg級 3位 中村隆春(日体大)
  全日本大学選手権 74kg級 2位 高谷惣亮(拓大)
  東日本学生秋季新人戦 96kg級 優勝  
2012年 全日本学生選手権(フリー) 74kg級 2位 嶋田大育(国士舘大)
  全日本学生選手権(グレコ) 84kg級 3位 横澤徹(拓大)
  全日本大学グレコ選手権 74kg級 優勝  

 北村を学生タイトルから遠ざけていたのは、ロンドン五輪男子フリースタイル74kg級代表で、昨年まで学生タイトルを総なめにしていた高谷惣亮(ALSOK)の存在が大きかった。北村は「甘い考えでしたが、高校2年で五冠王者となったことで、大学2年あたりで高谷選手に勝って学生王者になれると思っていた」と当時の青写真を振り返った。

 だが、希望とは裏腹に高谷との差は追いつくどころか、「技の展開の部分で差がありました」と、常に後塵を拝すことになってしまう。

 高校時代から持ち上げタックルを勝負どころの決め技にしていた北村だが、レベルが高い大学では、この大技がなかなか決まらない。そのうち、「やりたい技と、勝つためにやらなければならない技が違っていた」と、自身のレスリングスタイルの確立に悩む日々を送る。

決勝で銅タックルを仕掛け、相手を場芸へ押し出す

 やがて高谷以外にも敗北を喫することも出てきた。「大学では新人戦で3回優勝しただけ。JOC杯も勝ってないので、世界ジュニア選手権やアジア・ジュニア選手権にも行ったことがありません。高谷選手が卒業した今年のインカレでこそ優勝できると思っていたのに、年下の嶋田選手に負けてしまって…。しばらくレスリングをしたくないと思っていました」。高校時代にエリートだった北村にとって苦痛の2年半だった。

■世界学生選手権で“気楽に楽しむこと”に開眼!

 「極度の緊張しいなんです。ノミの心臓より小さいです」。メンタルは弱いと言い切る北村に追い打ちをかけていたのは、高校時代の栄光の記録だった。北村は「五冠王だから試合に負けてはいけない」と、自分自身にいらぬプレッシャーをかけていたことを吐露した。インカレで3年連続2位と勝ち切れなかった原因は気持ちの部分も大きかった。

 全日本学生選手権でタイトルを逃した北村だが、転機が訪れる。10月の上旬に世界学生選手権の代表として、フィンランドに渡り、銀メダルを獲得した。男子勢としては今大会唯一のメダリストになり、“主役”として堂々と帰国した。

 「海外遠征の経験が少なくて、どのように試合すればいいのかわからない部分があった」というが、これが勝つことに気負いすぎて空回りしていた日本の大会とは逆に作用。気楽に楽しむ自分がいた。

 「決勝で優勝を意識したら、また力が入ってしまって…」と金メダルには届かなかったことで、北村は勝つための“方程式”を導き出した。「気負いすぎずに闘えばいい」ことだ。

■本職外のグレコで余計なプレッシャーから解放された

全日本大学グレコローマン選手権は、その方程式を試すのに絶好の機会だった。本職のフリースタイルではなくグレコローマン。早大には、グレコローマンを主体にする選手がたくさんいるため、北村の肩に余計なプレッシャーがかかることはなかった。

 組み合わせも北村に追い風が吹いた。「初戦の中村隆春(日体大=昨年学生二冠王者)も、2回戦の池澤峻介(専大)も、決勝の嶋田も、今日のトーナメントは1度対戦して負けた選手ばかりだった。負けてはいけないという変な力みより、負けたことがあるんだから気負わずに、という気持ちが先行していた」と、平常心でマットに上がることで3選手にリベンジが成功した。「これがフリースタイルでの組み合わせだったら、ガチガチに緊張してしまっていたでしょう」。

約3週間後の全日本大学選手権が北村にとっての本命のタイトルだ。真価が問われる時だ。専門のフリースタイルで、世界学生選手権や今回見せた平常心を出せるかが、勝利へのかぎとなりそうだ。