※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
吉田沙保里(ALSOK)の“カレリン越え”で注目を集める9月27日からの世界女子選手権(カナダ・ストラスコーナカウンティー)。初出場ながら、日本チームの主将に指名されたのが59kg級の島田佳代子(自衛隊=右写真)だ。
2010年の全日本選抜選手権で優勝しながら、プレーオフで敗れて阻まれた世界選手権のマット。2年をかけてつかんだ夢。「ようやく、という感じですね。(世界選手権出場は)夢でした。やっと夢がかなう、という感じです」と燃えている。
■2月のアジア選手権優勝で脱皮か?
2月のアジア選手権(韓国)で優勝。国際大会で勝つだけの実力を身につけている。加えて、自衛隊による金メダル2個を含めたロンドン五輪の好成績で日本のレスリング界が乗っている時だ。自分にも周囲にもプラスのエネルギーが充満している。それらが強力な追い風となってくれそうだ。
シニアの国際大会で初優勝を飾った2月のアジア選手権(左から2人目)
その選手を破ったことは大きい。それまでの国際大会は、日大時代の2006年に世界学生選手権で優勝したあと、2010年サンキスト・オープン(米国)2位、2011年ゴールデンGP決勝大会3位と、国際舞台でそこそこの成績は残せても、表彰台の一番高いところには手が届かなかった。壁を破った選手というのは、一気に実力を伸ばすケースがよくある。
「得意の崩しを徹底的に仕掛けていきたい。日本のレスリングは、攻めてタックルで取るというレスリング。そのレスリングをやっていきたい」と、動いて、攻めてのレスリングを心がけ、世界へ挑む腹積もりだ。
■あえて59kg級にこだわったのは?
59kg級にこだわり続けてきた。一般的には、「自分の階級ではない」と思っても、五輪時には五輪階級で闘うのが普通だ。10代の若手選手ならともかく、社会人になってレスリングを続けている選手なら、五輪イヤーは五輪階級に挑み、わずかな可能性にかける。しかし島田は、昨年12月の全日本選手権でも59kg級に出場。この時点で五輪出場を“捨てて”いる。
全日本合宿で練習する島田
階級を下げれば、練習方法は微妙に違ってくる。技術習得より減量に時間を費やさねばならなくもなる。考えようによっては、それは“寄り道”となる。59kg級で世界一を目指す気持ちの前に、寄り道はしたくなかったのだろう。
それだけに、この世界選手権へかける気持ちは強い。いや、「この日のために、大学を卒業したあともレスリングを続けてきた」と言ってもいい。「後のことは何も考えていません」と、オリンピックへ向けての通過点という気持ちもない。
26歳という年齢からして、4年後のオリンピックへつながるかどうかは分からないし、今夏はロンドン五輪を生で見たが、「すごすぎて、別世界でした。自分がこの舞台に立つことが想像できません」という感想を持った。今の自分が目標にしてはならない世界という気持ちのようだ。
今は「世界選手権優勝」という結果を出すことで、レスリング人生にひときわ大きな輝きをつくりたい気持ちでいっぱい。“その後”があるとすれば、それは世界一を取ったあとだ。
「いつも練習しているところでオリンピック・チャンピオンが2人も出るチームなんて、そうそうないですよね。同じ環境で、同じ練習をしているのです。それを自信にしていきたい」。小原日登美と米満達弘の2つの金メダルが、初出場の島田を力強く後押ししてくれることだろう。