2012.08.30

【全日本学生選手権・特集】世界代表に2連勝! 女子48kg級の“ポスト小原”に入江ゆき(九州共立大)が名乗り

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 ポスト小原日登美は私だ! 全日本学生選手権の女子48kg級は、昨年1年生で優勝した入江ゆき(九州共立大)が、準決勝で9月の世界女子選手権(カナダ)同級代表の登坂絵莉(至学館大)を第3ピリオドでフォール勝ち。決勝では鈴木美織(環太平洋大)をわずか1ピリオド、フォールで下して2連覇を達成。女子の優秀選手賞も受賞した(右写真)

 天王山は準決勝の登坂戦だった。第1ピリオドは0-1で落とすが、第2ピリオドから入江は徐々に自分のペースに持ち込んでいった。「相手はすごく強い選手なので、間をゆるめないようにした」と、登坂を追い込んでから絶妙なタイミングでタックルを決めた。

 圧巻だったのは第3ピリオドだ。序盤から攻撃スタイルで得点を重ねた入江に、登坂がタックルで反撃を開始した瞬間に、「体が勝手に反応した」と、通称“牛殺し”(横へのタックル返し)で鮮やかなフォール勝ち。“世界選手権代表”をフォールで下すという衝撃的な内容で連覇を決めた。

■ポスト小原日登美は入江か登坂か!?

 ロンドン五輪の女子48kg級は、小原日登美(自衛隊)が感動的な試合で金メダルを獲得。2度の引退など紆余曲折の30歳でつかんだ悲願のメダルは、関係者の涙を誘った。小原は「これが自分の最後の試合」と、試合直後にきっぱりと引退宣言。ポスト小原の後継者が誰なのか、注目される状況となっている。

決勝で速攻のタックルを決め、快勝した入江(赤)

 入江は今年4月の時点で最も世界女子選手権代表に近い存在だった。今年1月の「ヤリギン国際大会」(ロシア)で準優勝すると、4月7日に行われたジュニアクイーンズカップでは決勝で登坂を破って優勝。2週間後のJOC杯にも休まず出場してまたも優勝し(登坂は別階級に出場)、来月4日からの世界ジュニア選手権(タイ)の代表を手に入れた。

 これだけの成績を残しながら、9月27日からの世界女子選手権の代表に入江の名前はない。代表選考会となった6月の全日本選抜選手権は、大会直前に38度の熱を出してダウンしてしまったのだ。「出たいと思いましたが」と、大会直前まで調整し続けたが、最終的に大事を取って棄権した。

 その結果、昨年12月の全日本選手権2位で、同大会で優勝した登坂が世界女子選手権の代表に決まった。その登坂に入江はJOC杯、全日本学生選手権と2連勝したのだから、本人と関係者は複雑な心境だろう。その話題を振ると、入江は「仕方がないです」とポツリ。その一言には、悔しさより、終わったことだから前を向くしかないというニュアンスが漂っていた。

■次世代のエース宣言! 「次の五輪は自分が出る」

準決勝で登坂と対戦。“牛殺し”でフォール勝ち

 もっとも、入江には世界女子選手権の代表もれを憂うひまはない。世界ジュニア選手権のみならず、10月には世界学生選手権(フィンランド)とビッグイベントに立て続けに出場することが決まっている。

 考え方によっては、五輪後で有力選手の多くが引退や休養に入る中で行われる世界女子選手権よりも、4年後に照準を合わせている若手トップ選手がこぞって顔をそろえる世界ジュニア選手権や世界学生選手権の方が、「まだまだ足りないものが、たくさんある」と話す入江の実力アップに、ふさわしいかもしれない。

 入江はロンドン五輪での試合をテレビで見て、「すごく強いと思った」と海外選手のレベルの高さを感じたという。だが、テレビの前で決意を新たにした。「4年後の次は自分が出る」―。小原日登美が引退した女子48kg級に新たなストーリーが始まろうとしている。