※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
必ず次世代のエースになる! 全日本学生選手権の男子フリースタイル55kg級は、昨年2位の森下史崇(日体大)が、決勝でインターハイ3連覇やユース五輪金メダルを取って山梨学院大に進んだ高橋侑希(山梨学院大)を2-1で下して初優勝。高校3年の時(2008年)に全日本王者を破って3位に入った逸材が、ついに大学でも栄冠をつかんだ(右写真)。
決勝戦は、この3年間ライバル関係が続いている高橋との対戦。森下VS高橋の名勝負は4月のJOC杯、5月の東日本学生リーグ戦に続いて今年3度目だが、2人のライバル物語は3年前にさかのぼる。
2009年のインターハイ(奈良)で、最後の夏を大会連覇で締めくくろうとした森下は、高校1年の高橋に負けてベスト8の結果。その後の2年間は、高橋が高校生、森下が大学生のため、ほとんど対戦がなかったが、ともに大学生となった今年は、学生の大会でも頻繁に対戦することになった。
インカレまでの通算成績は森下の4勝1敗だが、内容はいつも緊迫しているため、気は抜けない。一時は対戦するのが「少し苦手」と言っていた森下だが、今年4月のJOC杯で快勝したあと、「自分からタックルで攻めれば大丈夫だと分かった。高校3年で初めて対戦した時に負けてしまったけど、それあとはずっと勝っているので、今は特別に意識していない」ときっぱり。ライバルの一人という位置づけで、6度目の対戦となるインカレに備えていた。
■大会1週間前に左足首をねんざしていた
勝負は下馬評通りにはいかない。優勝候補筆頭の第1シードに座った森下に、試練が訪れた。大会の約1週間前、練習中の走り込みの際にマットの間に足を挟んで左足首をねんざ。応急処置を施したが、「試合当日も腫れが引いた程度だった」と、試合日まではスパーリングは全くできなかった。一昨年は不出場、昨年は決勝で同門の先輩に敗れ、今年の世界学生選手権出場を逃した。3度目の挑戦の今回は、けがによる大ピンチの中で迎えた。
だが、森下は「けがで出られないかもしれないと思ったから、よけい思い切って試合をした」と、出場できる喜びをかみしめて初戦から大暴れ。本調子からほど遠くても、初日の2試合はテクニカルフォールとフォールと格の違いを見せつけた。
決勝の第3ピリオドも積極的に攻めた森下(赤)
反省点が残る試合をしたからこそ、決勝の高橋戦では本来の森下の姿を披露したかったのだろう。第1ピリオド開始45秒で、鮮やかな両足タックルからのワンツー攻撃で3点を奪い、そのあとも終盤まで攻めの姿勢を貫いた。
第2ピリオドも中盤すぎにタックルで1点。攻め手をゆるめずにラスト数秒でもタックルに入ったところで、高橋にがぶり返しを受けて1-3で落としたが、森下に焦りはなかった。第3ピリオドも攻める森下に対し、受ける高橋の構図は変わらなかった。0-0でクリンチ勝負になったが、ボールは3ピリオドの攻めの姿勢を評価するように森下の赤が出た。
クリンチからの攻撃は森下が無難にテークダウンを奪って試合終了。クリンチでの勝負だったが、3年目で悲願の初タイトルを手にし、両手でガッツポーズ。「とりあえず優勝できたことはうれしかったから、ガッツポーズが出た」と振り返った。
■最後の世界ジュニアで飛躍できるか
初の学生タイトルを手にした森下。すぐに世界ジュニア選手権へ挑む
ロンドン五輪では若手選手も活躍していた。男子フリースタイル60kg級で、19歳で金メダルを獲得したトグルル・アスガロフ(アゼルバイジャン)はその象徴だ。森下は昨年の世界ジュニア選手権でアスガロフの存在を知っていたようで、ロンドン五輪での姿を見て刺激を受けた。「学生の間で、『勝った、負けた』って言っていられないです」―。森下はアスガロフより学年は1つ上。世界に羽ばたく資格は十分に整っている。