2012.08.09

【ロンドン五輪・特集】初戦に勝って、あとは安心…父・伊調春行さん

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

妹の優勝を見届け、両手に顔をうずめた姉・千春さん

 【ロンドン(英国)、文・撮影=樋口郁夫】女子で日本のあらゆる競技を通じて初となる五輪3連覇を達成した63kg級の伊調馨(ALSOK)。2004年アテネ五輪と2008年北京五輪は48kg級に出場した姉・千春さんは、今回はスタンドで応援。「一緒に闘っていました。馨が会場に出てきた時から、どうやって倒すとかを考えていて、応援ではなく、馨とともに闘っていました」ときっぱり。

 五輪3連覇については、「すごいことですよね。簡単にできることではないですよね」と笑みを浮かべたあと、「馨はすごいです」-。

 自身は2年半前に現役を退いた。歩む道は違っても、「いつも気持ちは一緒だと思っていました。4年間、見守ってきました」と二人三脚を強調。妹がロンドンへ向かう前に手紙を送ったそうで、「いつでも、どんな時でも一緒だよ」という内容だったという。

 もっとも、この手紙を送るにあたって悩んだという。「アテネ、北京と姉妹で金メダルを取るとしてやってきましたけど、『一緒』ということで、不安とかプレッシャーになっていたんじゃないかなあ、と。でも、いくら考えても、『一緒』という言葉以外に思い浮かばなかった。それを素直に書きました」と言う。やはり、「2人で取った金メダル」という思いが強いようだ。

■初戦に勝って、あとは安心…父・春行さん

 伊調の父・春行さんは「やっと、何とか取れました」とあっさり第一声。女子史上初の五輪3連覇の偉業だが、「馨はあまり気にしていなかったんですよ。今日の試合を勝つことだけを考えていたと思います。それがよかったんじゃないですかね」と、さらりと流した。

娘の五輪3連覇に喜ぶ父・春行さん

 そうは言っても、周囲からは嫌でも五輪3連覇の偉業達成の期待が寄せられる。「皆さん、そう言われるので、できればいいな、とは思っていました」と苦笑い。北京五輪のあと、休養したり、練習場所を変えて一人で練習してきたので、過去2回と比べて「大変な面はあったでしょう」と言う。

 それだけに、勝利を願う気持ちは強かった。初戦の相手が最大のライバルということは聞いていたようで、「緊張しました。馨も勝負だと思ったんじゃないでしょうか。第2ピリオドのラスト数秒で追いついて馨らしく勝ってくれて、あとは安心して見ていました」と、表情がゆるんだ。

 伊調を子供の頃に指導した青森・八戸クラブの沢内和興代表は「やる気になれば、オリンピック4連覇もできる」と、その強さに太鼓判を押した。気が早いが、五輪4連覇の可能性を問われるると、「(そう言ってもらえるのは)うれしいことですね」と笑いながら、「本人が決めること。引退しろとか、続けろとか、4連覇を目指せ、とかは一切言いません。『もういい』と言えば、それでいい。どっちにしても応援するだけです」と話した。

 母・トシさんは「最高の試合でした。応援ありがとうございました」と、多くの人の支援に感謝した。