2012.08.07

【ロンドン五輪第2日・特集】家族総出の応援実る! 弟の4年後につながる銅メダル

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

隆太郎選手の銅メダル決定後、握手する父・説男さんと母・晃子さん

 【ロンドン(英国)、文・撮影=樋口郁夫】日本男子レスリングのメダル獲得の伝統を守った松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)の銅メダル獲得を、父・説男さんと母・晃子さんはスタンドで、地元や日体大の関係者らと見守り、フォールを決めた瞬間、立ち上がってガッツポーズ。歓喜の渦の中で何度も応援者らと握手を繰り返した。

 晃子さんは「信じられません。まさか勝てるとは思っていませんでした。カザフスタンの選手には勝ったことがなかったんです。晴れの舞台で勝ってくれて、本当にうれしいです。頑張りを見せてもらいました」と、うれしさいっぱいに話した。その目にはうっすらと涙が光っていたが、「いえ、汗です。みんなと騒ぎましたから」と説明した。

 2010年の世界選手権では2位に入っているのだから、今回の銅メダルは驚くことではないが、晃子さんは「そのあと、いろいろありましたから(昨年の世界選手権の初戦敗退)…」、説男さんも「そんなことありません。強い選手ばかりなので、勝てるとは思っていませんでした」と控えめ。

 しかし、晃子さんは「少しずつ力をつけてくれたのかもしれませんね。今回は自分でどこまでできるか試す気持ちだったんじゃないでしょうか」と話し、説男さんは「ひとつの区切りとして、ここで頑張らなければ次につながらないと考えて臨んだ結果だと思います」と、息子の頑張りの源を推測した。

 ロンドンに入ってから隆太郎選手とは全く連絡をとっていなかったという。「変なプレッシャーをかけたくなかったですから」(説男さん)。表彰式やドーピング検査などが続くので、この日のうちに会えるかどうかは分からないが、「会った時に何と声をかけるか?」との問いに、説男さんは「よくがんばったね。色は(思っていたのと)違うけど、メダルに手が届いたので、よかったね」と、晃子さんは「最高の息子を持ったよ」と、答えた。

兄を応援する弟の篤史選手(予選)

■4年後のリオデジャネイロでは、弟・篤史が輝く番

 五輪のマットを目指しながら夢ならなかった弟の篤史選手(ALSOK=男子フリースタイル84kg級)は両親とは別の席で兄の快挙を見守った。「選手としてでなければ、オリンピックには行きたくない」と、当初はロンドンに来る予定ではなかった。しかし、兄に「4年後のことを考えるなら来い。世界選手権とは違うオリンピックのムードを味わえば、いい刺激になる」と諭され、6月下旬にロンドン行きを決めたという。両親と席が離れていたのは、そのためだ。

 銅メダルをかけた兄の闘いを「はらはらして見ていた。(勝った姿は)カッコよかった」という篤史選手は、「これだけやればメダルが取れるんだ、ということを教えてもらいました。(兄は)世界一の練習量をこなしていました。上の階級の選手ともとことん追い込んだスパーリングをやっていて、その姿を見ていましたので、メダルは取ってくれると思っていました」と言う。

 「うれしい反面、この舞台にいられない自分が…」と唇をかんで言葉に詰まったりもしたが、「これだけ努力してメダルを取った兄を誇りに思います」ときっぱり。

 うれしい気持ちと悔しい気持ちが混在したのは、北京五輪で湯元進一選手(フリースタイル55kg級)も経験したことで、それをばねに今回の五輪出場を果たした。そのことを指摘されると、「次のオリンピックでは、兄よりもいい色のメダルを取ります」ときっぱり。兄の雄志が弟の闘争心に火をつけた。

銅メダルを決めた直後、ガッツポーズの説男さん

応援に来ていた人達から握手攻めを受ける松本夫妻