※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
ロンドン五輪で3連覇を目指す女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK)は、5月のワールドカップ(東京)で敗れ、2008年3月から続いていた連勝記録が「58」でストップした(その前は119連勝)。しかし、個人戦に限れば、「157連勝」を継続中だ。レスリング界の連勝記録をさぐった。
■300連勝を超えていると推定されるアレクサンダー・カレリン
男子グレコローマン130kg級で五輪3度を含めて12度の世界一に輝いたアレクサンダー・カレリン(ロシア)は、本人が連勝数に全く興味がないこともあって不明。1987年ソ連選手権の決勝で負けたあと、2000年シドニー五輪の決勝で負けるまで13年近くにわたって国内外無敗とのことで、ロシア内、ソ連内での大会のほか、若い時はメジャー以外の国際大会にも出場していたので、300連勝以上と推定できる。
2度の五輪を含めて8度の世界一になっているセルゲイ・ベログラゾフ(ソ連)は1980~88年までメジャー国際大会で優勝を重ねた。本人の弁によると、この間、ソ連国内で2度負けているとのこと(1度はスパルタキアード大会)。また1983年に日本で行われたスーパーチャンピオンカップで金子博に負傷による途中棄権で敗れているので、国内外での連勝はそう多くはいっていないもよう。
同時期に活躍したアルセン・ファザエフ(ソ連)は1989年世界選手権で本来より1階級上に出場して決勝で敗れるまで、約7年間無敗だったとのこと。年間20~25試合闘ったとすれば、150連勝くらいはしていそう。
日本では、1964年東京五輪で金メダルを取った渡辺長武が、1960年から64年東京五輪にかけての約4年間と、1970年の全日本社会人選手権を経て、46歳で出場した1987年全日本社会人選手権2回戦まで無敗を続け、「189連勝」がギネスブックに載っている。
この間の試合といえば、2度の世界選手権、東京五輪、全米オープン選手権、アジア大会、ソ連遠征中の対抗戦、5度の全日本選手権、五輪予選、国体、3度の全日本学生選手権ほかリーグ戦など学生の大会など。当時は世界選手権のあとにも欧州に滞在して大会に出たり、1度の海外遠征で親善試合を何大会もこなしたので、約5年間で180試合を超えたようだ。当時は詳細な記録を残す時代ではなく、そのためこの記録を正式に認めていないマスコミがあるのは残念。
■世界5度制覇の高田裕司(日本協会専務理事)は88連勝
1976年モントリオール五輪を含めて4年連続世界一に輝いた高田裕司(現日本協会専務理事)は、1973年10月の東日本学生秋季新人戦から1978年世界選手権の初戦で敗れるまでの5年近くで国内外「88連勝」を達成している。大学卒業後は、全日本選手権と世界選手権などビッグマッチ限定で出場していたため、思ったほど数字は伸びていない。
日本選手相手に限れば、74年国体から80年全日本選手権決勝までに「77連勝」が最高。フリースタイルに限れば、73年の全日本ジュニア選手権までさかのぼるので「83連勝」という記録になる。
1964年東京と1968年メキシコの2度の五輪で勝っている上武洋次郎(現姓小幡)は、米国で1964~66年に全米大学選手権を3度制し、ここで「58連勝(0敗)」をマークしている。東京五輪(7勝)と五輪予選を合わせると「70連勝」。帰国後、1967年度の全日本選手権での3勝を加えて「73連勝」としたが、メキシコ五輪予選で青森・八戸工高卒2年目、新進気鋭の藤田義郎に負けてしまい(総勝ち点の差で優勝し五輪代表へ)、連勝記録はメキシコ五輪決勝での勝利までは続いていない。
■カエル・サンダーソンはNCAAで159連勝
米国、特に大学レスリング(NCAA)は比較的記録がしっかり残されている。1999~2002年のNCAA選手権を制し、のちにアテネ五輪で勝ったカエル・サンダーソン(アイオワ大)が4年間で159戦無敗、すなわち「159連勝」を達成しているが、これはNCAAで闘った試合の数字。2000年に東京で行なわれた世界学生選手権でロシアの選手に敗れており(最後は優勝)、両スタイル合わせた記録が何連勝かは(日本では)把握できていない。
NCAAで無敗だった選手は他に4人いる。1946~47年に優勝したビル・コール(ノーザンアイオワ大)で、「72連勝」をマーク。しかし、その後の48年ロンドン五輪では5位に終わった。1955~57年にNCAA3連覇を達成しているダン・ホッジ(オクラホマ大)は「46連勝」を達成しており、この間、1点も取られなかったという。ただ、その最中にあった1956年メルボルン五輪決勝で敗れており、サンダーソンのケースと同じでカレッジスタイルとフリースタイルをまたにかけての連勝は伸びていない。
87~89年にヘビー級で3度NCAAを制したカールトン・ハセリグ(ピッツバーグ大ジョンストウン校)が1分けをはさんで121戦無敗、すなわち「121連勝」。 もう1人の無敗選手は前述の上武洋次郎で、NCAAでの闘いの真っ最中に東京五輪で勝ち、2つのスタイルを勝ち抜いた。ほかの上位の記録としては、68・69年にNCAAを制し72年ミュンヘン五輪でも勝ったダン・ゲーブル(アイオワ大)は「100連勝」をマークしている。
4年連続ではないが90~92・94年にNCAA4度優勝したパット・スミス(オクラホマ州立大)が「98連勝」の記録を持ち、その兄であり87・88年のNCAAのほか、2度の五輪を含め6度世界一に輝いたジョン・スミス(オクラホマ州立大)は「90連勝」というレコードをつくっている。
ゲーブルはフリースタイルで71年世界選手権と72年ミュンヘン五輪に優勝しているが、これは大学を卒業後のこと。一方、スミスはカレッジスタイルと並行してやっていたフリースタイルでも87年世界選手権や88年ソウル五輪で優勝しており、上武とともに2つのスタイルを両立できた数少ない1人。並の選手ではなかった。92年の五輪予選での1敗まで連勝は続いているはずなので、150連勝は超えていると思われる。