2012.06.21

【明治杯全日本選抜選手権・特集】男子グレコローマン84kg級・天野雅之(中大職)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

決勝でライバルの岡にフォール勝ちした天野

 明治杯全日本選抜選手権の男子グレコローマン84㎏級は、昨年の全日本選手権覇者でロンドン五輪予選代表の天野雅之(中大職)が決勝で学生時代からのライバル、岡太一(自衛隊)をフォールで下して大会2連覇を決めた。

 同級はロンドン五輪の出場資格を取れなかった階級だ。2008年北京五輪までは松本慎吾(現日体大監督)が第一人者として活躍。常に世界の上位に進出し、2大会連続で五輪に出場して、ともにメダルが期待される階級だった。

 一時代を築いた松本が引退した後、この階級を背負ってたったのは天野や岡らの若手選手。しかし世界の壁は高く、天野のロンドン五輪出場は叶わなかった。五輪予選最終ステージ第1戦の中国大会のあと、天野は「全日本選抜選手権に出るか、まだ分からないし、次の五輪を目指すのも分からない」と口にし、進退を明らかにしなかった。

 だが、今大会のマットに天野の姿はあった。3月末のアジア予選(カザフスタン)と4月の中国予選と、海外でもまれた天野はたくましかった。初戦は学生相手に1ピリオドでフォールで下すと、準決勝も無失点のストレートで快勝。

 決勝では「よきライバル」と互いに認めあう岡に第1ピリオドはグラウンドの攻撃面で攻めあぐねて落としたが、第2ピリオドの後半、岡が強引にバック投げに移行したところをうまくつぶして今大会2度目のフォールを奪い、優勝を決めた。

■応援してくれた人へ、感謝の気持ちを優勝で伝える

 五輪予選代表らしく国内では圧勝-。下馬評どおりの優勝に見えたが、天野にとって五輪を逃した心の傷はすぐには癒えなかった。「本当に五輪への道が遠かった。五輪予選後はけがもしていたし、普通に仕事もあって今大会に出ると決めたのも1週間前でした」と、精神的にも物理的にもレスリングに気持ちが向いていなかった。

 そんな天野の心を動かしたのは、ロンドン五輪への道を応援してくれた人々だった。「五輪予選で枠を取って来られず申し訳なかった。この大会で勝って、応援してくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたかった」と、“五輪予選での奮闘”を体を張って報告するために3試合を勝ち抜いた。

 天野はもう一つの決断をした。「多くの方に、『次の五輪を目指してほしい』と言われました。4年間はすごく長い道のりですけど、頑張りたい」と現役続行を示唆。「今年は国体や全日本選手権で優勝を目標に、来年の世界選手権を狙いたい」と、新たな第一歩を踏み出した。