2012.05.28

【女子W杯・特集】五輪3連覇に最後の試練・・・吉田沙保里(ALSOK)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=保高幸子)

 ロンドン五輪の前哨戦となった女子ワールドカップ(W杯)。ロシアとの決勝戦で5番手に登場した55㎏級の吉田沙保里(ALSOK)は、昨年の世界選手権59㎏級9位のバレリア・ジョロボワに1-2で黒星を喫した。(右写真)

 吉田が負けるのは、2008年1月の同大会(中国・太原)以来で、新しい連勝記録は「58」でストップ。吉田は試合後号泣。表彰式後の記者会見でも「チームが優勝できてうれしいけど、主将として情けない。ロンドン五輪が控えているのに、ワールドカップで勝てず、ロンドンでどうなるのかという思いがある」と厳しい表情で話した

■“五輪壮行会”のはずが、悪夢へ

 ロンドン五輪では女子で前人未到の3大会連続金メダルを目指し、その最終調整で臨んだW杯。6年ぶりに日本で行われ、まさにロンドン五輪の“壮行会”となるはずだったが…。

 世界で勝ち続け、年々各国のマークが厳しくなっていることを肌で感じている吉田は、常に「タックルで突っ込んでもなかなか取れないし、相手が研究しているので」と話し、十八番の遠間からの高速タックル以外にも、新しい技やスタイルを積極的に取り入れてきた。3回目の五輪に向けては、近い間合いから相手をつかまえて技を出すスタイルに取り組んできた。

最後の逆転技も通じず、終了のブザーを聞いた吉田

 初日は、米国と中国の2試合に出場し、フォールとストレート勝ちで失点も0だった。だが、いつもの鮮やかな高速タックルは見られず、栄和人監督(至学館大教)の記者会見では「吉田の動きが悪いのでは」という質問が飛んだ。栄監督は「吉田は、接近戦のレスリングに取り組んでいる最中なので…」と、五輪に向けて敢えてこのスタイルで試合に臨んでいることを話した。

■チームの勝利が決まり、安心感があだに

 だが、決勝戦はそのスタイルがかみ合わなかった。ジョロボワに最初からディフェンスとカウンター中心のスタイルを取られ、「近間からタックルに入ろうとするとスピードがなく、入っても止まってしまったりするかな、と考えた。止まってしまうと、タックルを返されてしまうのではと思ってしまった」と、マイナスのことばかり頭によぎった。

 一向に攻めないジョロボワに、タックルで攻撃の糸口は見つけるものの、カウンターで全ピリオド失点した。第2ピリオドは、相手を場外際に出そうとした際に、かわされて勇み足のような感じで吉田の足が出てしまった。第3ピリオドも強引にタックルで相手を押し出そうとしたが、またも場外際で体を入れ替えられて失点。ラスト5秒は逆転を狙って相手に組み付いて強引とも思える技をかけたが、そこを乗られてニアフォールに追い込まれ、試合終了のブザーが鳴った。

吉田は涙を見せながらも、大勢の報道陣に向き合った

 メンタル面もマイナスに作用してしまった部分があった。初日の吉田の試合順序は、チームの勝負が決まらない3番手だったが、決勝は5番手となった。若手の頑張りで日本は4番手の小原日登美(自衛隊)まで4連勝してチームの勝利が決まったため、吉田は「安心してしまった」と、本来の戦闘モードと違った状態でマットに立ってしまったのだ。

 いろいろな要素の積み重ねが黒星につながってしまったのかもしれないが、「どうやったら(近間のスタイルで)勝てるのか考えて、(五輪本番に)間に合わないようだったら、前のスタイルに戻すかもしれない」と、残り2カ月の練習内容で究極の選択をするつもりだ。

 4年前に続き、またも五輪直前に吉田を襲った試練。「ロンドン五輪の前でよかった。五輪で3連覇しないと意味がないので、あと2カ月しっかり直して、ロンドンではしっかり笑えるようにしたい」と吉田。前人未到の偉業達成の最後の試練を乗り越えられるか―。