※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=保高幸子)
6年ぶりに日本で開催された女子ワールドカップ(W杯)は、予選Aグループ1位の日本が決勝でBグループ1位のロシアを5-2で破って6年ぶり6度目の優勝を遂げた。
栄和人監督(至学館大教)は「5年間優勝できなかったけど、皆さんの応援のおかげで6年ぶりに優勝できました」と、開口一番こそ団体優勝の喜びを口にしたが、決勝で喫した2敗が、4年ぶりの黒星となった55㎏急の吉田沙保里(ALSOK)と72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)というロンドン五輪代表選手だったというショッキングな内容だったため、すぐに厳しい表情に切り替わった。
日本は2004年アテネ&2008年北京両五輪ともに「金2、銀1、銅1」と全階級でメダルを獲得している。今回も金メダルの量産を目指し、かつ吉田と63㎏級の伊調馨(ALSOK)の女子五輪史上初の五輪3連覇という大きな記録がかかる。女子48㎏級の小原日登美(自衛隊)には同級初の金メダル、72㎏級の浜口には3大会連続のメダルの期待がかかるなど、記録は尽きない状況なだけに、本番のロンドン五輪まで残り2カ月、課題を残した大会になってしまった。
■5連覇中の中国と同グループとう試練を乗り越えた
大会初日、日本は初戦のウクライナを6-1で破ると、米国と中国にともに5-2で勝って同グループ1位を決めた。5連覇中の中国と同グループとなったことで、予選リーグから日本チームにはピリピリしたムードが漂っていたが、試合は48㎏級の小原が接戦を制したことで日本チームの流れになり、63㎏級の伊調でしっかりと4勝目。
72㎏級では、1、2回戦と黒星だった浜口が北京五輪チャンピオンで今年3月の五輪アジア予選(カザフスタン)で負けていた王嬌に2-1の逆転勝ちを収め、チームスコア5-2と快勝した。栄和人監督が「中国の6連覇を阻止できたことは何よりだと思っています」と振り返った価値ある勝利。吉田、伊調も、完ぺきな試合内容ではなかったが、しっかりと白星を収めていた。
決勝も勝ち、4戦全勝の宮原優
ふたを開けてみたら、一番手となった51㎏級の宮原優(JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高)がテクニカルフォールを含むストレートで快勝し、59㎏級の斉藤貴子(自衛隊)も2-0で続いた。67㎏級の土性沙羅(愛知・至学館高)は第2ピリオドでフォール勝ちし、栄監督が「あんなにスムーズに3階級が勝つとは思っていなかった」とうれしい悲鳴を上げるほどの出来。4番目に登場の小原が第3ピリオドでフォールし、日本の6年ぶり6度目の優勝が決まった。
■日本の勝利が決まったあと、悪夢に襲われた
そこまでは最高のシナリオだったが―。5番手の55㎏級からは“消化試合”となったことが、吉田のメンタルに多少ならずとも影響を及ぼした。「前の4階級を取ったことで安心感があった。『ただやれば勝てるという気持ちはダメ』と言われてマットに上がった」(吉田)。
本来なら55㎏級は3番目の試合となり、“消化試合”になることはないので、チームの勝利が決まったあとにマットへ上がるというのは、慣れないことだった。相手はすべてカウンター狙いで来たため、「タックルを返されるのではないかと思ってブレーキをかけてしまった」と、勢いがないタックルからのカウンター攻撃でポイントを奪われて、ピリオドスコア1-2と逆転負け。
優勝したチームとは思えない表彰式での日本
6年ぶりの地元開催のW杯。51㎏級の宮原が1階級下の五輪チャンピオンにも勝つ素晴らしい内容で全勝し、新戦力が台頭する明るいニュースもあったが、8月へ向けた最終調整としては合格とは言いがたい。
五輪階級で2人が負け、世界女王の小原と伊調も「内容がよくなかった」と、ピリオドを取られる試合があるなど後味の悪さが残ってしまった。“雨降って地固まる”-。W杯での反省をロンドン五輪までに修正できるかが、五輪での勝利のかぎとなりそうだ。