※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
金メダルを手にした長谷川
スーリヤンを破って2010年アジア大会以来の優勝を達成したあと、「4年前の予選でスーリヤンに敗れオリンピックに出られなかった苦い思いがある。これで4年前と違うところを示せたと思います。ずっと研究してきた相手。問題なく勝てたと言えば、勝てました。練習通りのものが出ました」と話した。
4年前は大きく投げられて敗れる屈辱の黒星だった。本ホームページには逆さまにされて投げられた写真が掲載され、その悔しさをばねに打倒スーリヤンを目指した。1年4ヶ月前にスーリヤンの壁を乗り越えたが、周囲からは「勝っちゃったね」と言われ、ラッキーな勝利と位置づけられた。
今回は「勝ったね」と言われ、一歩前進。ロンドン五輪ではスーリヤンとの対戦の組み合わせになった段階で、「(安全パイ相手で)ラッキーだね」と言われるような長谷川の強さ。ロンドン五輪の金メダルが、はっきり見えてきた。
■必死で優勝を狙ってきたスーリヤン
五輪出場枠を取るための大会だ。決勝進出が決まった段階で、その“宝物”を手にできる。決勝は負けても構わない試合。けがをしている選手は、それを悪化させないようにセーブするだろうし、悲願が達成した場合は緊張の糸が切れ、気合を入れようにも入らないケースが出てきても当然だろう。
第1ピリオド、スーリヤンのローリングをがっちり守った
自分の気持ちが乗っても、もし相手が“消化試合”という意識で臨んできたら、長谷川の闘志も萎えたかもしれない。試合前のスーリヤンの必死のウォーミングアップを見たら、「それは絶対にない」と感じたという。
世界選手権に5度優勝しているスーリヤンだが、2010年のアジア大会では長谷川に敗れてメダルを逃し、昨年の世界選手権はイラン協会と衝突して代表をはずされた。12月のプレ五輪(英国)の60kg級に出たものの5位。ある階級で抜群の強さの選手なら、上の階級でもメダルは取れるのが普通だ。
こうした結果から、圧倒的な強さを誇ったスーリヤンも落日を感じていることは間違いない。ここで優勝し、イラン協会と世界に実力をアピールしておこうと考えていることは想像に難くない。
■世界V5の選手が相手とは思えない快勝
そんなスーリヤンを、長谷川は“手順”にのっとって料理した。第1ピリオドのグラウンドの防御。ヒヤリとするシーンが一度だけあったが、しっかりと守り切った。アジア大会の準決勝第3ピリオドもスーリヤンのグラウンド攻撃を守っての勝利。これでスーリヤンのグラウンド攻撃を2度連続で守ったことになる。
スーリヤンを回した長谷川。残り数秒あったが、勝利のVサイン
グラウンド勝負を仕掛けたのではないという。スタンド戦でもポイントを狙っていったが、この部分では相手も強く、2ピリオドともポイントは取れなかった。スタンド戦はまだ互角の実力なのだろうが、グラウンドでの実力は、あきらかに長谷川が上と感じさせた一戦だった。
今年1月には世界2位の選手を破るなど、世界のトップ選手を順調につぶしている。しかし「去年負けたからから、ここにいるんです」と手綱はゆるめない。
五輪の金メダルは、何度か闘って勝率がいい選手がもらうものではない。10回闘って9回勝てる相手であっても、残りの1回が五輪なら金メダルは手にできない厳しい闘いの場だ。
やり直しのきかない一発勝負。8月5日、日本陣営のトップを切って長谷川が日本男子24年ぶりの金メダルに挑む-。