2012.03.20

【特集】自衛隊に挑む米軍! 被災地の復旧に尽力した同士がレスリングで交流

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=保高幸子)

 3月3~4日に埼玉・朝霞自衛隊で行われた全自衛隊レスリング大会には、米軍横須賀基地のチーム「シーホークス」も参加した(右写真)。全自衛隊大会は9競技で行われているが、自衛隊の駐屯地対抗で行われる大会なので、基本的に米軍は参加していない。しかし、レスリングの場合は、米軍基地で働く野田隆嗣さんの尽力で参加が認められ、現在にいたっている。

 野田さんは「このチームの前には、基地内にあるキニック高校でレスリング部を世話していたんです」とのことで、米軍にからんだレスリング・チームとのつながりが長い。九州レスリング協会会長だった父親(野田実さん)の影響で、自身も高校までレスリングをしていた。しかし当時はレスリングを好きになれず、大学では続けなかった。

 社会人になってからレスリングへの思いがよみがえり、木口道場へ出向いたり、娘にレスリングをやらせたりと、細々と関わっていた。そんなある日、当時横須賀に停泊していた空母キティホークの将校に依頼され、海軍の同好会レスリング・チームの世話をするようになった。

■フリースタイルは全員が初心者

 1999年に横須賀基地で働くようになり、本格的にレスリング・クラブ「シーホークス」を設立。福利厚生部と交渉してマット、シューズ、ユニフォームを揃えてもらい、専用のレスリング場で週3回の練習を行なっているという。

米軍選手同士の対決も実現

 現在の部員数は15人ほど。3分の1がレスリングの初心者だが、経験者はいずれも米国の高校や大学で行われているカレッジスタイルをやっていた選手。オリンピック・スタイルに関しては、やはり初心者ということになる。

 カレッジスタイルは、フリースタイルと似てはいるものの、フリースタイルでポピュラーなローリングが使えないなど、闘い方が違う。カレッジスタイルしか知らない「シーホークス」の選手にとってフリースタイルというのは、まったく違う競技に挑戦するようなもの。

 日本にいる以上、試合に出場するためにはフリースタイルをやらなくてはならない。慣れないスタイルであること以上に、年に3回の航海に出てしまうため、なかなか練習ができない。上達をすることは難しいが、社会人大会、区大会などを含め年に何度かの大会に出場してきており、試合出場を楽しみにしている。

■参加したのは「トモダチ作戦」の空母ジョージワシントンの乗組員達

シーホークスを率いる野田隆嗣さん

 自衛隊大会に出場するようになったのは10年ほど前から。野田さんは「参加を認めてもらうまで、2年くらいかかりました。本来は自衛隊の大会ですからね。横須賀で防衛大といっしょに練習したり、アメリカンスクール大会での審判派遣をお願いしたり、日本のレスリング界といろんなつながりがあったおかげで、受け入れてもらうことができました。レスリングだけがこうして米軍を受け入れてくださっているというのは、ありがたいです」と話す。

 「日米友好」もさることながら、“レスリングに関わるもの同士”という思いが、自衛隊の上層部をはじめ多くの人たちの心を動かしたのだろう。今回参加したのは、東日本大震災の被災地で「トモダチ作戦」に参加した空母ジョージワシントンの乗組員達。この人道支援の状況をみれば、自衛隊も米軍もない。

 当初のエントリーは12人で、ジョージワシントン以外の護衛艦の乗組員などに属する部員も6人いた。突然の勤務が入り、参加できなかった。これは、やむをえまい。

 2、3年で異動があるため、部員はすぐに入れ替わる。しかし、米国フロリダ州のペンサコーラ基地にある、自衛隊で言う「体育学校」のようなところに5人が進んだこともあったそうで、志や自信の大きい若者が時に生まれることもある。

3位に入賞したゲイブ・ウィション選手

■「来年は優勝しますよ!」とゲイブ・ウィション選手

 今年は84kg超級のゲイブ・ウィション選手が3位入賞。「1年前に横須賀に着任して、自衛隊大会は今年初めて参加しました。高校生の時にワシントン州大会で3位になったことがありますが、フリースタイルは寝技がきついですね。でも楽しかった。来年も参加したいです。参加させてもらえて、感謝しています。試合できることがうれしい。日本が大好きです」とウィションさん。殊勲賞を獲得し、「やり始めると、オリンピックを目指したくなりますね」と、大きな夢も語ってくれた。

 シーホークスの練習には時折、キニック高校の生徒が練習にくるという。「去年は練習に来た2人がアメリカンスクール大会で優勝したんですよ」と野田さん。米軍の自衛隊大会参加は、米軍と自衛隊の交流にとどまらず、日米交流、そしてオリンピック・レスリングの普及にも影響は及んでいる。末永く続いてほしい交流だ。

 「自衛隊の選手は強い。だけど来年は優勝しますよ!」とウィション選手。“ヤンキー魂”の宣戦布告に、自衛隊も負けてはいられない!