2012.03.09

【特集】「絶対にカザフスタンで決めます」…男子フリースタイル55kg級・湯元進一(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=保高幸子)

 トルコ・イスタンブールでの世界選手権から半年がたち、再び五輪出場枠をかけた闘いが始まる。

 3月30日~4月1日にカザフスタン・アスタナで行われる五輪予選第2ステージ「アジア予選」(上位2カ国に出場枠が与えられる)には、昨年12月の全日本選手権の優勝者が派遣されることとなり、男子フリースタイル55kg級は昨年の世界選手権代表の湯元進一(自衛隊=写真)が挑戦する。日本協会の定めた規定により、出場枠を獲得すれば五輪代表に決定する。

■自信があった昨年の世界選手権だが…

 「55kg級は(世界選手権に)誰が出てもメダルが取れる階級。その強敵、松永選手(共広=当時ALSOK)と稲葉選手(泰弘=警視庁)に勝ったのだから、オレは世界選手権でメダルを獲る、と自信がありました」と言う湯元。世界選手権初出場の2009年は、大会の規模の大きさに圧倒されたが、五輪出場枠がかかった昨年は研究も万端で気持ちに余裕ができ、自信もあった。

シモンズの“チョーク攻撃”に苦しんだ湯元

 双子の兄、同60kg級の健一(ALSOK)と史上初の双子同時代表実現か、と話題にもなった。お互いに世界に通じる実力があり、調子もよく、出場枠の獲得はほぼ確実と誰もが思っていた。

 しかし4回戦に“予定外”の選手が上がってきた。負けた相手はニコラス・シモンズ(米国)。試合ビデオがなく大会で初めて見た選手。湯元には免疫のない反則ギリギリのチョークまがいの技を得意とする選手だった。直前の試合のビデオを見てはいたが、試合では何度も同じ技にかかってしまった。

■iPadに入ってるビデオで常にライバルを研究

 あと1勝で出場枠獲得の5位以上というところまで進んだが、悲願はならなかった。優勝するつもりで臨んだ湯元は、まさかの事態に「日本代表として情けない」と落ち込んだ。悔しさから立ち直るのに少し時間がかかったが、この経験をプラスにとらえようと考えた。「他の選手と同じ立場になっただけ。天皇杯(全日本選手権)で勝てば良いんだ」と、対策にあたることができた。

 シモンズの技に対しても、自衛隊レスリング班監督でもある伊藤広道・強化副委員長から「グレコローマンでは似た技がある」と教えてもらい、対策をマスター。苦手意識をなくした。

五輪予選での最大の敵、ディルショド・マンスロフ

 全日本選手権は、湯元が予想した通り稲葉が決勝の相手となり、長年のライバル決戦で五輪出場枠の挑戦権を争うことになった。世界選手権後は、全日本選手権まで稲葉を研究し尽くしたという。その結果、湯元が対決を制し、五輪予選第2ステージのアジア予選への切符を獲得した。

 アジア予選には2003・05年世界王者で、松永共広(北京五輪銀メダリスト)が一度勝ったことがあるが、日本選手は分が悪いディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)が出場してくることが濃厚。世界選手権でマンスロフを破った北朝鮮も強豪だが、今大会は出場してこないため(2月のアジア選手権に同国は出場しなかたため)、手強い相手となるのはマンスロフだけと考えられる。

 湯元は「やってくる技はわかっているので、それを防ぐことさえできればいい」と自信を見せる。iPadに試合映像を入れて、常に研究できるようにしているという。

■4月7日に決戦に臨む兄・健一をバックアップできるか

 アジア予選へ向けては、「2度の世界選手権で勝てなかったことは残念だけど、今は前しか見ていない。2010年のアジア選手権(インド)は優勝していますし、アジアで勝つ自信はある。残り3回の予選のうちの1大会は2番手が派遣されるかもしれない、と言われていますが、国内ではすべて僕が勝ってきたので、絶対に自分の手で取りたい、第3、4ステージに他の選手をいかせたくない、という気持ちです。絶対にカザフスタンで決めます。意地でも自分が取ります」と力をこめる。

五輪出枠獲得を目指して練習する湯元進一

 フリースタイル55kg級は、五輪では2004年アテネ(田南部力=警視庁)、2008年北京(松永)と2大会連続でメダルを獲得している。その流れを受け継ぐためにも、カザフスタンで出場枠を獲得し、五輪のキップを勝ち取りたい。

 昨年の世界選手権で出場枠を勝ち取りながら、全日本選手権で日本代表を決められなかった兄・健一の代表をかけたプレーオフが4月7日に決定した。北京五輪では健一に遅れを取った進一だが、今回はロンドン五輪への切符を先に手にし、兄をバックアップしたい。

 けがもなく、心身ともに万全で臨む湯元。今度こそ、この大一番で良いところを見せてくれるだろう。