※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)
全日本選手権の男子グレコローマン96kg級を制したのは、84kg級でアジア2位などの成績を残し、今年秋に階級アップを決めた斎川哲克(両毛ヤクルト販売)。準決勝では世界選手権代表の有薗拓真(山梨学院大)を、決勝では第3シードで全日本選抜選手権3位の山本雄資(警視庁)に対して、ともに1ポイントも奪われないというすばらしい内容。
しかし、斎川本人も、指導し練習相手でもある松本慎吾・日体大監督も今回の優勝には決して満足していない。
■正解だった3ヶ月前の階級アップの決断
優勝を決め、応援席にアピールする斎川
通常体重が102kg程度なので、今は減量も「絞る程度で済んでいるし、スピードも決して落ちていない」と階級を上げたことをプラス思考に受止めている。
準決勝と決勝をポイントを奪われることなく優勝したにもかかわらず、満足できていないのは、まだ試合中に「息が上がってしまい、足がついていかない」「構えが浮いてしまう」から。斎川の口からは反省の弁が続いた。
階級を上げたからといって、食事の量を増やしたり、ウエートトレーニングのメニューも変えたりはしていないという。ロンドン五輪出場へ向けての自分なりの課題はその反省の弁で述べた2つの克服。「3月末のアジア予選(カザフスタン)までに総合的な練習を積みます。そして、オリンピックを目指します。アジア予選はオリンピックの通過点くらいの気持ちでいかないと、オリンピックには出場できないと思っていますから」と、勝ってなおも自分に厳しくを宣言した。
決勝の山本雄資戦も無失点で快勝した斎川
斎川が信頼を置いている松本監督は「100点満点の70点です」と話した。その理由は、国体で優勝している斎川には、もっと自信を持って臨んでほしかったという思いがある。「相手の選手には失礼な言い方になりますが、国体での斎川の動きを見る限り、階級アップしたことも間違いではなかったし、実力差があると思う。もっと相手に圧力をかけて、アグレッシブな攻めをしてほしかった」と、できるはずなのにできなかった斎川の闘いぶりに檄を入れた。
体も大きくなっており、海外の経験も積んでいるということを考えれば、もっともっと攻めて、もっともっと動けてよかったと、松本監督は言いたいのだ。
ただ、この大会に関しては、内容よりも「勝たなければいけない大会」だった。その壁をクリアしたことで、次のステップに移れる。アジア予選までに、攻めのパターンを増やすことが斎川に掲げられたテーマだ。アジア予選では、今大会よりもさらにスキルアップされた斎川の姿を見ることになりそうだ。