※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
ローリングの連続で国内最後の黒星の相手、村田を退けた長谷川
■元世界代表に苦戦するも、最後は実力差を見せつける
初戦は元54㎏級世界代表の村田知也(三重・久居高教)。第2ピリオドはチャレンジ(ビデオチェック要求)された末に落としたが、第3ピリオドは気持ちを切り替え、怒とうのローリングの連続。わずか32秒でテクニカルフォールを決めた。2回戦からは有望な若手選手に無失点で試合を運び、5度目の優勝を手にした。
今年1年、長谷川は思い切った作戦をした。海外遠征を行わずに、異例の国内調整のみで3度目の正直となる世界選手権(トルコ)に挑んだ。しかし、またも表彰台を逃し、3位決定戦にも回れなかった。これは、五輪出場権を逃したことを意味する。
世界選手権直後には、床に座り込んで悔しがる長谷川の姿があった。「今年は(海外遠征をせず)国内で一番追い込んだけど、世界選手権で結果を出せなかった。(世界で負けた後の)9月、10月とモチベーションが上がらなかった」と振り返ったが、やる気を出させてくれたのは国内の選手たちだった。
決勝でも若手を寄せつけなかった長谷川
北京五輪後、一気に世代交代が行われた同階級は、一時は長谷川の独断場だった。全日本選手権を制し続けているから、国内では一度も負けたことはないが、有力な若手は次々と育ってきている。今大会の決勝に駒を進め、2ピリオドともに1-0、1-0と接戦を演じたのは、大学チャンピオンの田野倉翔太で、長谷川と練習拠点を同じくする選手。
「日体大の練習で、若手の選手たちが僕を倒そうと必死に向かってくる。まだまだ負けられない。チャンピオンらしくしなくてはと思った」と、11月からは再びロンドン五輪へ向けてギアを切り替えた。「国内でも強い選手ばかりなので楽な試合はなかった」と話したが、それだけに手ごたえ十分な試合を展開。「ロンドン五輪に向けてようやくスタートラインに立った」と、3月へ向けての自信が出てきた。
アジア予選には、まだイランなど強豪が残っている。だが長谷川は、「男子は14大会連続でメダルを取っているので、その伝統のにない手になりたい」ときっぱり。北京五輪では出場を逃したグレコローマン最軽量級の五輪出場を必ず決めると宣言した。