※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)
5点となるバック投げを豪快に決めた松本
■世界銀メダルのあと、屈辱の初戦敗退
松本にとっては浮き沈みの激しい1年ではなかったか。2010年に出場した世界選手権で銀メダルを獲得。世界における自分のポジションを知り、取り組んできたトレーニングに自信を持つことができた。迎えた今年の世界選手権は「できれば金メダル、最低でもロンドン五輪の出場権獲得」と踏んでいたはずだが、ふたを開けてみればまさかの初戦敗退。
相手が欧州王者のレバズ・ラシヒ(グルジア)という難敵だったとはいえ、本人にとっても周囲にとっても期待を裏切る結果になった。「厳しい相手だと分かっていたし、何度か対戦しているので、何をやってくるかも分かっていた。敗因をひとつに絞るのは難しい。いろいろなことが重なった結果だと思う」
3か月ほど前の悔しい敗戦を反省しつつ、すぐさま前を向くあたりが松本の強さなのかもしれない。「このままでいいのかなと少し思いましたけど、割り切るのは早かったですよ。比較的すんなりと次、次というふうに」
迷いが少なかったのは、自分のレスリングに対する自信と、それを貫こうという覚悟ができているからだ。海外の選手は瞬発力こそ強いが、スタミナでは日本人よりも劣るレスラーが多い。だからスタンドでガンガン攻める。序盤の攻防で相手の体力を奪っておき、グラウンドの攻防を有利に運ぶというパターンである。
昨年の天皇杯に続き、男子グレコローマンの最優秀選手賞を受賞(左から2人目)
「このやり方が通用するのはアジアでも分かっています。しっかり自分のレスリングができれば、たとえ第1ピリオドを取られても、第3ピリオドで取り返せます」
母校の日体大では、階級が上の選手とスパーリングを重ね、学生パートナーを次から次へと取り換えるハードなトレーニングにも励んだ。自慢の体力は以前より確実にアップしていると感じている。
「あとは技の出し方や試合運びといったプランをしっかりすることが大事だと思う。3ヶ月後にはしっかりオリンピックのキップを勝ち取ってきたい」
アジア予選までに何をすべきかは見えている。最後のひと押しがあれば、弟・篤史(ALSOK=フリースタイル84級)との兄弟同時五輪出場という快挙に近づくはずだ。