※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
2006年ドーハ・アジア大会の銀メダリストで、北京五輪を逃したあとロンドン五輪にかけてきた男子フリースタイル66㎏級の小島豪臣(K-POWERS=右写真)が、五輪前年の土壇場にして階級アップを決意。74kg級で全日本選手権に出場することになった。
■米満の世界銀メダル獲得で、74kg級アップを決意
青森・八戸工大一高~日体大出身。学生王者を経て、2004年の全日本選手権60kg級で優勝。階級を上げ、2006年には66㎏級で世界選手権に出場し、その年のアジア大会では2位と躍進した。だが、その後の大事な全日本選抜選手権や全日本選手権は、試合中に負傷するアクシデントに見舞われることが多く、北京五輪後、中量級のエースの座を米満達弘(自衛隊)に奪われてしまった。
米満は2008年の全日本選手権で初優勝を飾ると、2009年はアジア選手権で2位、世界選手権で3位。2010年はアジア大会で金メダルを取り、2011年の世界選手権では決勝の舞台へ。現在ナショナルチームの中で最もいい成績を残し、ロンドン五輪の金メダル候補にまで成長している。
今年5月、米満と大激戦した小島だが一歩及ばず
今年の夏ごろ、4大会連続世界選手権を逃した小島の心境に変化が出る。1階級上の74㎏級に挑戦したくなってきた。「以前から、74㎏級でやれるという自信がありました。場外でもつれたときに体重の差を感じる程度でしたので、階級アップは面白いかなと思います」。9月の世界選手権(トルコ)で米満が銀メダルを獲得したことで、10月の山口国体が最後の66㎏級と心に決めた。
■練習の中心はウエートトレーニングへ
山口国体は優勝したものの、「内容がバタバタしてしまった」と反省が残る大会となってしまったが、ひとつ明るい兆しを感じることがあった。「減量のため普段どおりのパフォーマンスを出せなかった。だから階級アップして、練習どおりの試合をしたい」-。
ウエートトレーニングに余念がない小島
対戦相手とのシュミレーション、そして練習にも「以前は走りを重視していたけど、今はパワー重視しています」と、74㎏級へシフトチャンジも着々と進んでいる。スパーリングや走り中心だった練習から、ウエートトレーニングを多く取り入れているのは、階級アップだけが原因ではない。
小島は今夏、個人でイラン遠征を行い、「イランの選手は下半身の動きを大切にしているトレーニングが多く、(66㎏級世界王者の)タカビ含め、ほとんどスパーリングをやっていなかった」という現実に触れた。そこで学んだことを、日本で実行している。「体幹を鍛えることで、タックルに入っても構えが崩れなくなった」と、手ごたえも十分感じている。
■親交の深い長島和幸の分まで頑張る
小島にとって、74kg級には試合はおろか練習でも組んだことがない選手もいる。その筆頭が、今年の学生MVPの高谷惣亮(拓大)だ。それでも、「すごく楽しみです」と前向きだ。
昨年の全日本社会人選手権に続き、今年11月の全国社会人オープン選手権でも74kg級で優勝
“闘いたくない”から“闘えない”と状況が一変。病床の長島に小島は電話で階級変更の報告をしたところ、「オレの分まで頑張って」とエールをもらったという。
長島が5連覇中と絶対的な強さを誇ってきた74㎏級に参戦する小島も、肩書きでは負けていない。「僕は60㎏級、66㎏級と2階級で全日本選手権を優勝してきました。今年3階級目の優勝を絶対果たします」。66㎏級への階級アップはすんなり成功した。果たして74㎏級へのシフトチェンジも、難なくクリアしてしまうのか-。
小島豪臣(こじま・たかふみ)=K-POWERS 1983年8月29日生まれ、28歳。青森県出身。青森・八戸工大一高~日体大卒。高校時代の01年にインターハイ優勝。日体大へ進み、03年にフリースタイル60kg級で学生二冠(全日本学生選手権、全日本大学選手権)を獲得。04年の全日本選手権で初優勝し、05年アジア選手権へ出場して銅メダルを獲得。その後、66kg級へアップ。06年に世界選手権へ出場し、アジア大会で銀メダル。その後は負傷もあって日本一から遠のいたが、10年はサンキスト・キッズ国際大会で優勝し、11年アジア選手権は5位入賞。168cm |