※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
12月21日から始まる全日本選手権、女子48kg級(22日実施)は、世界女王の小原日登美(自衛隊)が優勝すればロンドン五輪の日本代表に決定する。51kg級から下げて挑む同じ世界選手権代表の志土地希果(至学館大)が阻止するか、復帰した往年の女王・山本美憂(白寿生科学研究所)が食い込めるかなどの話題がある中、静かに闘志を燃やしているのが21歳の鈴木綾乃(ジャパンビバレッジ=右写真)だ。
■母親の熱意でバレエからレスリングへ転向
鈴木がレスリングを始めたのは「5、6歳のころ」。母親がテレビで女子レスリングを見て「カッコいい」と思い、地元のクラブに連れて行ったのが最初だった。それまでは、3歳からバレエをやっていたという。
すぐにやる気にはならなかったが、母親が根気よく連れて行ったことで、だんだんと楽しくなってきた。バレエからレスリングに転向。試合に出たのは小学校に入ってから。「最初はぜんぜん勝てなかったけど、勝てるようになってから試合も楽しくなってきました」
全日本選手権へ向け、中学生の時から汗を流す代々木クラブで調整をする鈴木
しかし、ほぼ毎日来ることに驚きの気持ちがあった。ある日、定期券を目にして松戸から通っていることが分かった。「この子は本気だ、と思いました。根性がありますよ」と太鼓判を押す。
■社会人になっても続ける以上、目指すはオリンピックのマット
「強くなりたい」-。ただその一心で、平日は学校の後に代々木クラブへ通い、土日は松戸ジュニア教室の練習に参加していた。鈴木は「アテネ五輪の予選会で見た吉村さんがカッコよかったんです。すごい人だな、と思って。一緒に練習できて刺激になりました」と振り返る。
中学では全国大会2位が最高の成績(2004年)。憧れの吉村選手がいる代々木クラブで続けたいと安部学院高への入学を希望し、同校初のレスリング特待生となった。2年の時の全国高校生女子選手権50kg級で三村冬子(現日大=今年の全日本選抜選手権2位)に勝つなどして優勝。3年生の時(2007年)はジャパンビバレッジクイーンズカップ・カデット50kg級とJOC杯カデット52kg級を取り、めきめき強くなっていった。
4月の全日本選手権で中学時代からのライバル、三村と闘う鈴木
これまでに一度だけ心が折れそうになったことがある。昨年の全日本選手権(3回戦で高校生に黒星)が終わった後、気持ちが落ち込んだ。金浜良コーチに「もうやめたい」と泣きながら電話したという。
「負けた直後は気持ちが揺れることもある。とりあえず体を動かすところからやってみよう、と言われ、練習を再開したんですが、楽しくなくて…。でも徐々に気持ちが上がって、今年の全日本選抜選手権(4月)の時は、いつもどおりに戻りました」と立ち直った。闘志は途切れなかった。「五輪を目指す私への会社のはからいに感謝しています」と言う。
■国内大会での敵は、「勝たなければ」のプレッシャー
現在は、朝練習は同じ所属の松川知華子(55kg級)と行い、午後は代々木クラブの練習に参加している。吉村コーチが「国際大会に強い」と言うように、2009年ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)で3位、2010年同大会で2位など、世界の強豪を相手にした入賞歴もある。
2009年ゴールデンGP決勝大会でメダルを取った時の鈴木(右から2人目、優勝は坂本真喜子)
しかし3位入賞を果たした昨年の全日本選抜選手権は、半年前に負けた相手にリベンジしてのメダル獲得だった。負けん気は人一倍強いと自覚する。吉村コーチは「強くなりたいという気持ちが強い。力も強いし、国内でも勇気を持って力を出し切れば、食い込める」と期待する。
鈴木は「もつれる場面があったら、最後には自分が上になるように練習しています。そのきっかけを作るタックルや崩しもやってきました」と攻撃力の強化もしてきた。目指してきたロンドン五輪へ向け、「一試合一試合を大事に闘って、優勝を目指して頑張りたい。気持ちを強く」と自分に言い聞かせるように抱負を語った。
地道に努力を続けてきた鈴木。勝てない苦しみは嫌というほど味わった。今度こそ表彰台の一番上に昇りたい-。
鈴木綾乃(すずき・あやの)=ジャパンビバレッジ 1990年2月1日生まれ、21歳。千葉県出身。東京・安部学院高卒。00年全国少年少女選手権2位、04年全国中学生選手権2位などを経て、07年にアジア・カデット選手権52kg級優勝。08~10年にかけてクリッパン女子国際大会、オーストリア・オープン、ゴールデンGP決勝大会でメダルを獲得。今年10月のサンキスト・キッズ国際大会で優勝。154㎝。 |