2011.12.15

【特集】復活優勝にかける“初代”ロンドン五輪の星…男子フリースタイル60kg級・前田翔吾(ニューギン)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 国内で最も激戦階級と言われる男子フリースタイル60㎏級。2008年北京五輪では湯元健一(ALSOK)が銅メダルを獲得し、世界で通用する階級であり、次々とスターが生まれる階級でもある。

 北京五輪後、湯元は負傷の治療などで一時的に戦列を離れ、同級は新しい時代に突入した。ポスト湯元に真っ先に座ったのは当時日体大の学生だった前田翔吾(ニューギン=右写真)。2009年は世界選手権(デンマーク)にも出場、5位と健闘。同級のニュースターとして注目された。

■2010年全日本選抜のプレーオフ敗戦で歯車が狂う

 このままロンドン五輪の最有力候補で走り続けると思われたが、その後、チーム事情で約半年間、公式戦に出場できない事態に見舞われた。欠場した2009年全日本選手権は、同じ学生の小田裕之(国士舘大ク)が優勝。闘わずして王座を明け渡してしまった。出場制限が解けた2010年5月の全日本選抜選手権で実力どおりに優勝したが、小田とのプレーオフで力尽き、2年連続の世界選手権出場を逃してしまった。

日体大で練習に励む前田

 「選抜のプレーオフで負けてから、自分のレスリングができなくなってしまったんです。日に日に考えすぎちゃう部分もあって」―。まじめな性格が裏目に出てしまい、自身でも「勝つレスリングを求めすぎて、レスリングが崩れてしまい、スランプだった」と振り返る。

 学生時代、前田は藤本英男前部長から「理詰めのレスリングができる選手」と評されていた。「以前は組み手や前に出るレスリングで、流れを重視していたのに、スランプ時は、アタックすることばかり考えていて、自身のスタイルが崩れてしまった」と分析。前田の最大の売りだった試合の組み立てが後手に回っていたことが不調の原因だった。

 スランプの原因を明確にした今では、試合の流れを第一に考えて全日本選手権への仕上げを行ってきた。一時は失った自信も、徐々に取り戻しているようで、「本番まであとわずかしかないけど、自分が思っているところに近づいている」と話す。

■世界5位だった2009年秋より「ずっと強くなっている」

 相手が完全にディフェンスに回ったときは、無理にでも攻める必要があるかもしれないが、そうした試合ばかりではない。その前に、試合の流れを第一にすることとし、全日本選手権へ向けての仕上げを行っている。

 一時は失った自信も、徐々に取り戻している。「本番まであとわずかしかないけど、自分が思っているところに近づいている」と話す。

10月の国体で勝ち、自信を取り戻した前田(赤)

 そもそも、大学4年で出た世界選手権時は、「グラウンドが得意ではなく、全日本チームの合宿でもそれが課題でした」と振り返り、苦手分野も多い状態だった。世界5位になった世界選手権から、はや2年以上が経過。「あの頃よりは、ずっと強くなっている」と前田はきっぱり話す。

 前田の自信に繋がっているのは、学生時代と同じ練習をこなしていること。OBになると練習の時間や量を拘束されず、実際に朝練習に出なかったり、出げいこに行くOBも少なくない。その中で「どのOBよりも間違いなく日体大の練習に出ています」と言い切る。

■湯元健一へ4年半ぶりのリベンジなるか

 その練習量を武器に、全日本選手権では3年ぶり2度目の優勝を目指す。前田にとってヤマ場となるのが、9月の世界選手権で銅メダルを獲得し、ロンドン五輪出場権に王手をかけている湯元健一だ。

 「湯元先輩とは、2007年の全日本選抜選手権の2回戦で1度だけ対戦したことがあります(勝負はストレートで敗退)」。最大の壁、湯元と同じ練習拠点で常にライバルを直接研究できる。だが、逆に湯元の強さも痛感してしまう。

 「湯元先輩に3連勝する気持ちになると、悲壮感がありますが、僕は世界選手権で湯元先輩が五輪の権利を取ってきても取って来なくても、12月の全日本選手権で優勝すると決めていました。優勝を目指します」。

 前田の敵は湯元ではない-。前田翔吾が3年ぶりの復活優勝を目指す。

----------------------------------
 

《男子フリースタイル60kg級の強豪の最近4大会の成績》

大 会 名 湯元健一 高塚紀行 小田裕之 前田翔吾 石田智嗣
2011年選抜 優 勝 3位(●石田) 二回戦(●石田) 初戦(●石田) 2位(●湯元)
2010年全日本 優 勝 2位(●湯元) 3位(●湯元) 三回戦(●松本桂) 三回戦(●湯元)
2010年選抜 3位(●高塚) 2位(●前田) 初戦(●石田) 優 勝 3位(●前田)
2009年全日本 3位(●小田) 2位(●小田) 優 勝 (不出場) 初戦(●湯元)
2009年選抜 (不出場) 初戦(●小田) 二回戦(●前田) 優 勝 ※66kg級

※選抜は全日本選抜選手権、全日本は全日本選手権

前田翔吾(まえだ・しょうご)=ニューギン
 1987年5月23日、愛知県生まれ、24歳。刈谷チビッコ教室出身。愛知・星城高~日体大卒。高校時代には中京女大に通い吉田沙保里とも練習。高校3年の05年に、JOC杯ジュニア選手権で大学生に混じった中で2位となり、アジア・ジュニア選手権で3位入賞。同年の国体で優勝。日体大へ進み、08年の全日本学生選手権で3位となり、同年の国体2位を経て、全日本大学選手権で優勝。全日本選手権でも初優勝を達成した。09年はアジア選手権で5位のあと、世界選手権へ出場して5位へ。その後は日本代表から遠ざかったが、今年の国体で優勝し復活の兆しを見せた。170cm。