※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
新旧インカレ王者決戦を制した半田
“手負いの優勝”だった。今月5日の全日本合宿最終日に左ひざのじん帯を痛め、診断の結果、切れてはいなかったものの佐藤満コーチにこの大会の出場辞退を申し出た。控えにエントリーされていた選手が出場することになったが、体重が落ちず、前日になって急きょ出場することに。けがが順調に回復していたとしても、気持ち的にきつかったと思われる。
しかし、出場辞退はしたものの、心のどこかに「出たい」という気持ちがあったそうで、モチベーションは0にはなっていなかった。さらに「インカレで負けてから、その悔しさを晴らそうとして練習してきました。その気持ちが続いていました」と、どんな時でも闘う気持ちは持っていたという。
けがをしたことや、出場を辞退した経緯については、半田自身の口は極めて重かった。「言い訳ととられるのが嫌ですから…」。優勝して「言い訳」とは? それは半田が内容にまったく満足していないからだ。「(決勝は)守って勝ってしまった。作戦勝ちであって、実力で勝ったんじゃない。満足できません」と厳しく採点。
笑顔がほとんど見られなかったのは、そのため。「でも、優勝という結果は自信になるのでは?」という問いかけにも、「攻めて勝たないと…。タックルもでたらめで、たまたま引っかかって取れたから勝てただけ。(治療で)しばらく練習できないけど、つくり直さなければなりません」と、どこまでも厳しい言葉が続いた。
■“京阪神ネットワーク”で切磋琢磨
昨年学生王者となり、今年は全日本合宿に呼ばれ、ゴールデンGP決勝大会に抜てきされるなど次代のホープとしての扱いも受けた。それだけに全日本学生選手権での負けは大きなショックだった。「(去年は)日体大が出ていないから優勝した、みたいに思われてしまったと思う。それが悔しくて…」。その思いを晴らしたはずの大学王者達成だが、反省点が数多く出てきた。
その謙虚な気持ちこそが、今後の飛躍につながることは言うまでもない。全日本選手権へ向けてウエートトレーニングなどをしっかりとやり、ロンドン五輪につながる関門へ挑むという。「出る以上は(五輪を)狙います」ときっぱり。
マットワークはどの程度練習できるか分からないが、同じ京都府出身の石田智嗣や田中幸太郎(ともに早大)のように、組み手で攻勢を取った中から一発で取る攻撃ができるようにすることが目標だという。
この日の4階級の決勝のマットに上がった8選手のうち、自身を含めて5選手が京都府出身で、京阪神となると6選手。「高校時代から顔見知りで、よく練習してきた。刺激になりますね」と言う。“京阪神ネットワーク”で切磋琢磨し、上を目指して努力を続けてほしい。