※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫 / 撮影=保高幸子)
決勝の第1ピリオド、こん身の力で前川を回した金沢
決勝は早大1年生の前川勝利。茨城・霞ヶ浦高時代に高校五冠王に輝き、今年4月の全日本選抜選手権でも優勝するなどスーパールーキーとして知れ渡っている選手。金澤も今月初めの国体の2回戦で0-2(0-1,0-1)敗れており、「正直言って、勝てるとは思っていなかったです」と振り返るほどの強豪だ。
しかし、何も対策を立てずに臨んだわけではない。国体では場外に押し出されて負けていた。「(2分1ピリオドの)今のルールは、押し出されたら負け」と、とにかく押し負けないことが必要とし、相手の突進を振ったり、いなしたりして圧力をカット。その結果、スタミナをロスしなかったそうで、これが第1ピリオドのローリングの成功につながり、試合の主導権を取ることができた。
もちろん、「いくら全日本選抜王者であっても、1年生に負けてたまるか、という気持ちもありました」と話し、その意地も優勝の大きな原動力だった。
■どん底まで落ちた1年生王者、「あとは上がるだけ」とリラックス
2年前に全日本大学選手権(フリースタイル)96kg級で1年生王者に輝いている。しかし、その後、タイトルに見離されてしまった。「勝てないことのプレッシャーに襲われました。でも、どん底まで落ちてしまい、もう上がるだけです。そう思えて、この大会はリラックスして闘えました」と言う。
また、減量のない120kg級にしたことで、10kgも減量のあった96kg級の時よりも「伸び伸びして闘える」とのこと。心身のリラックスも優勝の大きなパワーになったようだ。
岩手県九戸郡にある種市高の出身。海に面している地域だが、地震や津波の被害はさほど受けず、死者・行方不明者は発生していない。家族や親戚も無事だった。しかし、岩手県出身の人間として故郷の惨状には胸を痛めていた。「頑張っている姿を、岩手の人達に知ってもらいたい」。この優勝により、岩手のレスリング界へ、そして岩手県民へ、ささやかながらもエネルギーを送ることができただろう。
来年からはフリースタイルかグレコローマンかのどちらかに集中する予定。外国選手と闘うようになったら96kg級に戻すかもしれないが、しばらくは120kg級で闘うことも決めている。「120kg級で通じるパワーをつけます。そのうえで、パワーを維持して96kg級に落とせばいいかな、と思っています」という計画も描いており、世界への飛躍も口にした。