2011.10.20

【全日本大学グレコローマン選手権・特集】60kg級・矢野慎也(拓大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=樋口郁夫 / 撮影=保高幸子)

 全日本大学グレコローマン選手権第1日、日体大の4階級独占を60kg級の矢野慎也(拓大)が阻止した。

 日体大代表の泉武志(日体大)とは、8月の全日本学生選手権決勝で顔を合わせ、1-2(1-0,1-1L,0-3))で敗れていたほか、愛媛県の国体予選で敗れているので2連敗中だった。リベンジを果たし、「インカレでは、勝てる試合を自分の弱いところが出てしまって負けた。今回は団体戦でもあり、絶対に勝つという気持ちだった。勝ててうれしい」と安堵の表情を浮かべた。

 シード制を採用していない大会なればこその学生1位と2位の初戦激突。前日の計量の後にその組み合わせを知った時は、「反対ブロックになっても決勝でやる相手だと思っていたので、逆に初戦で当たることになってよかったと思った」そうだ。

決勝でバック投げをさく裂させ、優勝した矢野

 どの選手にとっても、減量明けの初戦というのは自分の体がどんな状況なのか分からず、思ったように動けるのかどうかという不安がつきまとう。そこでウォーミングアップをふだん以上にやり、「1試合目にすべてをかけた」。試合が2日にわたって行われるインカレと違い、1日で決勝までが行われる大会ということも、初めからエンジンをフル回転できる要因。ベストの状態で初戦のマットに上がることができたようだ。

 泉はスタンドの攻撃が強い選手だそうで、インカレの時は守ることでスタミナをロスし、粘れなかったという反省があった。今回は「腕取りなどで相手の動きをさせないことを考え、それが実行できたことが勝因」と振り返った。インカレで負けた時から次の闘いのことを考えて課題に取り組んできた勝利だった。

 ライバルへの勝利で弾みがついた。青木成樹(青山学院大)との決勝では「相手は55kg級から上がってきた選手だし、2歳下。絶対に負けられない」という勝つ強い意志を持ってマットへ。形はやや崩れたがバック投げも披露し、強さを見せた。

■2017年の愛媛国体までレスリングに打ち込む

 泉は愛媛・八幡浜工高での同期生。自身が60kg級、泉が66kg級でインターハイ団体戦のベスト8へ進出した元チームメート。階級が違ったため、大学へ進んでからもライバルとして意識したことはなかったし、日体大に出げいこを行った時には60kg級の強い選手と練習することが多く、「練習した記憶がない」と言う。

 今年、階級を下げてきて、「嫌な選手が来たな」と思ったという。つまずきを乗り越えて勝つことができたのは、今後の自信になることだろう。その今後は、「2017年に愛媛国体があるので、それまではレスリングを続けたい」として、自衛隊へ進んでレスリングを続けることを希望している。

 全日本レベルでの実績が少ないため、いきなり体育学校に入れないことは十分に承知している。一般自衛官として入隊して体育学校行きを希望することになるが、「やる以上は上を目指したい」として、多少遠回りすることになってもレスリングに打ち込める環境を求めた。

 愛媛国体までには、2016年に五輪というビッグイベントもある。「一歩一歩ですね」と苦笑いし、それを目指すことまでは明言しなかったが、昨年12月の全日本選手権では3位に入賞しており、この先、全日本のトップを目指すだけの資質があるのは間違いない。

 そのためにも、今年12月の全日本選手権では一歩上の決勝進出を目指したいところ。「松本さん(隆太郎=世界選手権代表)には勝てるムードが全然ありません。でも、1ポイントでも取れるよう全力を尽くします」と、拓大選手として出場する最後の闘いに全力投球を誓った。