※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=保高幸子)
負傷から復帰し、五輪ロードに再参戦する藤村
「天皇杯(全日本選手権)以来、10ヶ月ぶりの試合でした。とにかくけがの連続でしたけど、もう完全復活です」と宣言した藤村。74kg級での挑戦は「スタンドで体重差を感じました」というが、それでも1階級上に何もさせなかったことは評価に値する。久しぶりの試合で勘が戻っていなかったと言い、「動きが悪かったですね。もっと足で前に出たかったけど、上半身だけでスタンドをやっていました」と反省点をあげた。
決勝で闘った葛西直人(埼玉・自衛隊)はいつも練習している相手。「どっちが勝つかわからなかったですよ。葛西が普段と違う動きだったのですが…。もし普段通りこられたら危なかったと思います」と勝因に葛西の不調をあげ、自分のレスリングに決して満足はしていない。
とにかく、この国体で復活した、そして五輪ロードに戻るきっかけがつくれた。「うまく復帰できるか、レスリングできるか、と不安だった」と語る藤村。地元での国体には家族も見に来ていた。「初めてですよ」と少しはにかんだあと、「だからといって何も変わらないですけど」と続けた。家族に復活した姿を見せるのに、これ以上の場所はなかっただろう。
4月末の全日本選抜選手権を負傷で見送り、五輪前年の世界選手権の機会を逃した。しかし「焦りはなかったです。もし岡本佑士(警視庁)が枠を取ってきても、奪えばいいと思いました。岡本が取っても取らなくても、きついのは同じなので気にしませんでした。自分でできることをやっていただけです」と、静かに五輪への闘志を燃やした。
準々決勝では豪快なリフト技もさく裂
「誰にも負けない自信があります」とさらっと言うことができる。「代表は実力がある人が取る。実力で取ります」。五輪への道は天皇杯で優勝し、3月末にカザフスタンである五輪予選(アジア予選)で2位以内。それをもちかけると、「2位は嫌ですね」と負けず嫌いの言葉が飛び出した。
数々のけがから完全復活したとはいえ、マット練習がまともにできるようになったのが8月20日頃というから、1ヶ月半しか練習していないことになる。「スタンドが雑になっていました。スタンドでうまく対応できず、疲れてしまってグラウンドにも影響が出そうになりました」と、感覚を取り戻すことだけが天皇杯までの課題だ。
五輪の目標については、はっきりと言わなかった。「言っても変わらないです…。でも、みんな金メダルを目指すものでしょう」と濁した。本当の復活は全日本選手権で優勝し五輪に出場すること。まずは12月、長く堪え忍んだ思いと、五輪への情熱の全てをぶつける藤村のレスリングが見られるだろう。