※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【イスタンブール(トルコ)、文=保高幸子、撮影=矢吹建夫】最終日に快挙を成し遂げたのは、前評判通り2009年世界3位、2010年アジア大会王者の男子フリースタイル66kg級の米満達弘(自衛隊)だった。惜しくも金メダルは逃したもの、フリースタイルでは1995年の和田貴広(62kg級)以来、16年ぶりの決勝進出を果たし、五輪出場権のほか銀メダルをつかんだ。
五輪出場権がかかる世界選手権は、46選手もの激しいトーナメントとなった。どの階級の選手も味わったし烈な争い。日本チームの中にも緊張に襲われ、実力を発揮できなかった選手もいた。
無念の銀メダルの米満達弘
予感は現実になり、米満の攻撃力が爆発した。初戦の2回戦は、2008年北京五輪8位のほか昨年世界5位の実績があるバツォリグ・ブヤンジャフ(モンゴル)。第1ピリオド、タックルとバックポイントで2点を奪い、第2ピリオドは返し技をくらうが押さえ込んで2-2のラストポイントで終了。
3回戦の相手アダム・ソビエライ(ポーランド)も昨年欧州選手権3位の強豪。まずタックル返しをくらったが、審判は3-0のジャッジ。相手がチャレンジするものの覆らず、4-0へ。第2ピリオドは開始早々にタックルからバックポイントを奪われるが、その後得意のタックルがさく裂して2ポイント取って逆転。
五輪出場枠がかかった準々決勝では、昨年世界3位で2年連続欧州王者のヤブライル・ハサノフ(アゼルバイジャン)と対戦。タックル返しを2度くらったものの、4-4から残り3秒でタックルを決めて5-4。第2ピリオドも中盤にタックルから1点もぎ取って五輪出場権獲得を決めた。
そして今年欧州選手権2位のレオニド・バザン(ブルガリア)を準決勝で圧倒。第1、2ピリオドを通じて6回のタックルを決め、目を突かれるという反則気味に2度の押し出しをくらったが、実力差を見せて決勝進出を決めた。
もうだれも止められないような勢いだった。準々決勝までタックル返しをくらうことが多く、心配があったが、準決勝ではそれも修正してきた。
■徹底的に守られたタガビー(イラン)との決勝
決勝前に一言コメントを求められた米満は「もともと優勝を目指してやってきたので、五輪出場権うんぬんはありません。金メダルを取ります」と気持ちを引き締めていた。
第2ピリオド、クリンチの防御からテークダウンを許し金メダルが消えた
しかし、試合が始まってみるとまさかの展開だった。タガビーの作戦は、「徹底的に守る」だったのだ。もともと守る相手を苦手とする米満は「完全に守られました。あからさまにクリンチ狙いで、なかなか崩すことができなかった」と勝機を見いだせなかった。田南部力コーチ(警視庁)は「得意のタックルを捨ててでも、」守りにきた」と相手の作戦を分析した。
「守ってくることはわかっていたけど、あそこまでとは…。(自分は)運が悪いので、クリンチにだけはならないようにと第1ピリオドは攻めたんですけど、カウンターでやられました。強引に行ってしまった」と振り返る。
第1ピリオド終盤にタックルに行き、崩れた所で足を取られ場外で1ポイントを奪われ、ピリオド終了。第2ピリオドも仕掛けるもののポイントにつながらず0-0で終了。米満が引いたボールで相手の攻撃権が決まり、持ち上げられてテークダウンを奪われた。金メダルの夢はあっさりと消えてしまった。
■世界3位、2位ときて、来年は金メダル
「今日はぼちぼちの調子でした」といって報道陣の笑いを誘った米満だが、朝からいつもと顔も違って見えていた。タガビーとの実力の差はない。米満も負けた、という気がしていない。「作戦の差ですね。戦術は重要だなと思いました。あそこまで守ってくる相手には体力勝負では勝てない。力やスピードだけでなく、頭を使わないとダメだ、と思いました。スパーはいつもお互い全力をだしてぶつかることしかやっていなかったので、逃げている相手に対してどう攻めるのがいいか、研究します」
2009年世界3位、そして今年の世界2位-。惜しくも金メダルは逃したが、頂点に近づいているのは間違いない。「ロンドン五輪で金メダル取るしかないですね」と決意を語った米満。「タガビーと対戦したい」とリベンジの思いもある。どんどん進化を続ける米満はきっと五輪では一番いい色のメダルを獲ってくるだろう。