※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
昨年、世界選手権(ロシア)で2位、アジア大会(中国)で3位と実力を示した男子グレコローマン60kg級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売=右写真)。しかし世界一を目指している松本は満足していない。今年はさらに良い色のメダルが期待されている。言うまでもなく、本人が一番欲している。
「去年決勝で負けて悔しい思いをして、来年こそは、と思った」と語る松本。昨年は、世界選手権を迎えた時点で実績は「ゼロ」に近い状態だった。「周りからの期待もそれほどではなかったですし、気楽ではあったと思います」と言う、
昨年の松本を見れば、世界トップの実力がある事は明らか。世界選手権への意気込みも自ずと変わってくる。「今年はいろんな人が期待してくれているので、もっと上を目指したいです。プレッシャーも去年より大きいですが、自信もあります」
■研究されても、体力勝負になれば関係ない
海外での経験も積んできた。3月はハンガリーで合宿に参加(足首のけがのため、試合は出場せず)、5月には米国から招待を受けて親善試合(ワンマッチ)と合宿に参加した。試合では、今年の世界選手権に米国代表でエントリーしているジョセフ・ベターマンに2-1で勝利。合宿では他の階級の世界のトップとやりあってきた。
世界のメダリストとなったことで研究される対象となったが、恐れてはいない。「自分のスタイルは変えられないもの。研究されたとしても、体力勝負になれば対策でどうこうなるものではないので勝負できる」と自信満々。世界選手権後のアジア大会では右足首のけがで満足に動けなかった。あまりに痛々しく、あわや、と思わせたが、それでも諦めなかった。
もちろん研究もされていたはずだが、体をうまく使って押し出すなど、テクニックとスタミナ勝負で銅メダルを勝ち取った貴重な経験もある。どんな逆境でも勝ちを獲りにいくその意識の高さが最大の武器だ。(左写真=全日本合宿で練習する松本)
心配されるのはいくつか抱えるけが。ひじは万全ではない。だが「試合中は痛みを感じない」と話し、大きな心配はなさそう。世界選手権に向けて、長く過酷な合宿を経て追い込んだ練習ができていることが自信につながる。合宿だけではない。この1年、世界で通用した得意のスタンドを磨いてきた。
■試合が終わった時、五輪出場枠がついている闘いを
「去年闘ってみて、自分の力を出せば上に行ける、という自信もつきました」。この合宿では、持ってる限りの技術の最終確認をしてきた。また、当たり負けしないよう上の階級とやってみたり、全力でのスパーリング10本をこなすなど、猛烈なトレーニングを重ねた。
体力データが上がっていることが証明するように、2人相手のスパーリングでも追い込めるようになった。特訓が効いているのだろう。(右写真=昨年の世界選手権でアテネ五輪王者を破った時の松本)
「表彰台の一番高い所、金メダルを目指してやっていけば、自然と五輪枠はついてくる」と話し、最終目標は五輪の金メダルであり、頂点を目指してやっている。今年の世界選手権で枠を取る事は大事ではあるが、目標が高いだけに、試合が終わった時、枠がついてきているというのが理想。
「一発で権利を取って、12月には五輪出場を決めたいです」。それがロンドンで頂点に立つための近道だ。準備に不足はない。「ガンガン当たっていきます」と力強い言葉。持てる力を出し切る事だけが勝利への道だ。昨年の無念の思いを晴らし、頂点で微笑むのは松本に違いない。
松本隆太郎(まつもと・りゅうたろう=群馬ヤクルト販売)
1986年1月16日、群馬県生まれ、25歳。群馬・館林高~日体大卒。高校時代の2003年に全国高校生グレコローマン選手権と国体グレコローマンで優勝。日体大に進み、2年生の05年に学生二冠王。翌06年に世界ジュニア選手権7位、全日本選手権2位など。07年はアジア選手権に出場して5位に入賞するとともに、全日本学生選手権と国体で優勝。全日本選手権でも2位へ。手首の手術で戦列を離れたあと、08年国体で復活優勝。09年の全日本選抜選手権とプレーオフで勝って世界選手権代表へ。8位に入賞した。10年も世界選手権の代表となり銀メダルを獲得。アジア大会は3位。168cm。
◎松本隆太郎の最近の国際大会成績
《2011年》
【5月:カービー・カップ(米国)】
ワンマッチ ○[2-1(1-0,0-2,1-0)]Joe Betterman(米国)
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《2010年》
【11月:アジア大会(中国)】=3位(12選手出場)
3決戦 ○[2-1(0-3,3-2,2-0)]Sanjarbek Jumashev(ウズベキスタン)
敗復戦 ○[2-1(TF0-6=0:51、1L-1,3-0)]Xie Zhan(中国)
1回戦 ●[0-2(TF0-6=1:51,0-2)]Omid Noroodzi(イラン)
【9月:世界選手権(ロシア)】=2位(31選手出場)
決 勝 ●[1-2(1-0,0-1,0-1)]Hasan Aliyev(アゼルバイジャン)
準決勝 ○[2-1(3-1,0-2,3-0)]Jung Ji Hyun(鄭智鉉=韓国)
3回戦 ○[フォール、3P1:59(1-0,0-2,F3-0)]Ravaz Lashkhi(グルジア)
2回戦 ○[2-0(1-0,4-0)]Lenur Temirov(ウクライナ)
1回戦 ○[2-0(1-0,3-0)]Albert Baghumyan Aghazaryan(スペイン)
【6月:G・カルトジア&V・バラバーゼ国際大会(グルジア)】=21選手出場
3回戦 ●[1-2(1-3,1-0,0-1)]Revaz Lashkhi(グルジア)
2回戦 ○[2-0(2-0,3-1)]Gogita Gogiberashvili(グルジア)
1回戦 BYE
【3月:ハンガリー・カップ(ハンガリー)】(25選手出場)
敗復戦 ●[0-2(0-1,0-1)]Soner Sulu(トルコ)
2回戦 ●[0-2(0-4,0-1)]Hasan Aliyev(アゼルバイジャン)
1回戦 ○[2-1(0-1,2-0,2-0)]Edward Barsegjan(ポーランド)
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】=2位(11選手出場)
決 勝 ●[0-2(0-3,0-3)]Ji-Hyun Jung(韓国)
準決勝 ○[2-0(2-0,2-0)]Jeremiah Davis(米国)
2回戦 ○[2-1(1-0,0-2,4-0)]Jiang Sheng(中国)
1回戦 BYE
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《2009年》
【9月:世界選手権(デンマーク)】=8位(36選手出場)
4回戦 ●[0-2(0-4,0-1)]Nurbakyt Tengizbayev(カザフスタン)
3回戦 ○[2-1(0-1,1-0、TF6-0=1:21]Artak Harutyunyan(アルメニア)
2回戦 ○[負傷棄権、2P2:00(0-2,TF6-0=1:09,Inj)]Ta Ngoc Tan(ベトナム)
1回戦 BYE