※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
無敵の白星街道を突き進む吉田沙保里に、ほんのわずかでも「突き上げられている」という気持ちを抱かせているであろう55kg級の新星、村田夏南子(東京・安部学院高/JOCアカデミー)。その村田が、国内の高校生の大会でここまで追い詰められることを、だれが予想しただろうか。
相手はキッズ・レスリングの名門、大阪・吹田市民教室出身の増田奈千(大阪・堺女子)。昨年のJOC杯ジュニアオリンピック・カデット52kg級で優勝し、オリンピックゴールドメダル賞をもらった選手だ(この時のJOC杯が村田)。その後、けがもあって浮上してこなかったが、並の選手ではなかった。(右写真:村田=赤=にがぶり返しを決めた増田)
■柔道にはない技、がぶり返しで追い込む
村田は準決勝で、今年のシニアのワールドカップ代表となり、アジア選手権でも3位に入賞した菅原ひかり(愛知・至学館)に2-0で快勝。ゴールデンGP決勝大会2位などの実力を見せつけた。しかし、決勝で相対した増田は第1ピリオド、0-3から村田の投げを押しつぶしてフォールの体勢へ追い込んだ(左下写真)。逃げられたが3-3となり、ビッグポイントでこのピリオドを先取。
第2ピリオドは逆にフォールの体勢に追い込まれ0-5で取られたが、第3ピリオドは0-1のあと、がぶり返しで村田の体を1回転させて2-1とリード。このあとのレッグホールドが崩れてしまってリードを生かすことができなかったが、見ている人に「村田が負ける!?」と思わせるだけの試合展開だった。
「第1ピリオドを取って、勝てたと思った。でも、それで油断したわけではありません。やはり相手の方が強かった」と、村田の強さを認めたが、その表情は悔しさいっぱい。村田は昨年12月から国内のシニアの世界でも通じる実力を示して注目を浴びている選手だが、だからといって緊張したり、おじけづいたりすることはなく、「絶対に勝ってやる」と思ってマットに上がったという。
村田とは、試合でも練習でも闘ったことはなかったが、柔道から転向した選手だということを知っていたので、投げ技には注意。「自分はレスリングで闘うんだ」として臨んだ。乗り越えられなかった差は? 増田は「自分の甘さです。最後にあきらめてしまった」と振り返った。
■「目標はあくまでも上です」と村田
4歳の時からレスリングをやっていて、優勝も数多く経験している。「波に乗ったら、絶対に勝てると思います」と地力には自信を持っている。今後も村田と闘うこともあるだろが、「勝つためにはスタミナが必要です」と話し、新たに始まったライバル物語へ向けて気合を入れた。
一方、村田は「決勝の内容は悪かったけど、優勝できたから」と、3連覇達成にまずはホッとした表情。第3ピリオドに一瞬だが1-2とされたことについては、「まだ時間があったので、落ち着いていました」と振り返り、焦りはなかったようだ。(右写真=地力を見せて3連覇の村田)
「同世代の大会で、これだけ接戦したことは初めて?」の問いに、「1年生の時から、けっこう接戦はありました」と返し、接戦を勝つのも強さと言わんばかり。「(吉田沙保里を)追い上げるだけじゃなく、追い上げられている、という気持ちは?」という問いには、「上を目指して頑張ります」と答え、目標はあくまでも上であることを強調。こんな言葉に、次代のホープとしてのプライドが感じられた。