※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=保高幸子)
北東北インターハイの最軽量級(50㎏級)は3年の阿部宏隆(茨城・鹿島学園)が貫録の優勝を果たした。インターハイの決勝戦は4面マットで4階級が同時に始まる。阿部は第1ピリオドで早々と田代大貴(佐賀・鹿島実)をフォールの体勢へ。レフェリーがマットをたたくと、雄たけびをあげて喜びを爆発させた(右写真)。激戦が展開される他の3面を横目にあっさり優勝を決めた。
今シーズンは、2月の関東高校選抜大会でまさかの計量失格を喫し、3月の全国選抜大会への道は閉ざされた。高野謙二監督は「選抜は震災で中止になったから、あまりダメージがないように見えるが、実際は計量失格は痛かった」と振り返る。
阿部本人も気持ちが切れかけたそうだが、5月から食事は茶碗いっぱいのご飯で節制し、3ヶ月越しの減量計画で50㎏級に挑んだ。
同級は、昨年まで山崎達哉(東京・自由ヶ丘学園)が2連覇していた階級。3連覇がかかった山崎は東京都予選で計量失格してインターハイに出場できず。昨年の千葉国体で山崎を破って優勝した高谷大地(京都・網野)も55㎏級へシフトチェンジ。今大会、同級は本命不在だった。この状況で阿部は「自分が優勝するしかない」と、自身を鼓舞して出場。全試合ストレート(決勝は1ピリオドフォール)でトーナメントを勝ち抜いた。
■強豪と同県というハンデがあった鹿島学園
セコンドの高野監督の目も真っ赤になっていた。「創部10年で初のチャンピオンです。10年前、体育館の壇上にマットを引いて始まって…」と苦節10年を振り返った。同県には天下の霞ヶ浦の存在が大きく、他県からのスカウトはまず成功しなかった。「スカウトを断られるのは当たり前。多くの人から(霞ヶ浦がいるのに)鹿島学園を強くするのは無謀だって言われました。それにもかかわらず、全国少年少女大会で7回優勝した阿部が入ってきてくれた時は、本当にうれしかったし、チャンピオンになってくれてよかった」と優勝に浸った。
父の敏明さんも大手を振って喜んだ。「1年生の時のJOC杯ジュニアオリンピックカップで十二指腸潰瘍で試合後に倒れ、そのまま緊急手術し、1週間意識不明だったんです。医者からは、危険な状態と説明されました。それでも3年の最後には、こうやって優勝できた」と、波乱万丈だった高校生活のラストでチャンピオンになったことを喜んだ。(左写真=左から父・敏明さん、阿部、高野監督)
大病を患っても折れなかったレスリング魂。阿部は「姉も弟もレスリングをやっているから、続けられた」と家族のサポートがあったことを話した。次の目標は「国体、また50㎏級です」と、高校最後のタイトルを取るまで阿部の気持ちはゆるまない-。